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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第45章

第807回

「サンフルーリィ氏とフランショーム氏は、クラリス=ド=ヴェルモンのそばにいて、かの女の愛情を奪い合った仲だと聞いています。そして、<ディスクール=ダディユ>には、この二人のテーマが出てきます。ロビンのテーマは<生>、エマニュエルのテーマは<墓石>。かの女は、その二つのテーマをそう呼んでいました。つまり、生と死との対立がこの曲の背景にありました。どちらが勝ったのか、もちろんご存じですね?」
 彼はうなずいた。
「<ディスクール=ダディユ>の、いいえ、かの女の人生の答えは、それだったのです。かの女が本当に愛していたのは、エマニュエル=サンフルーリィでした。かの女は、それを、いつか彼に伝えて欲しいと言い残しました」
「・・・で、それを伝えたの?」
「いいえ」
「どうして伝えなかったの?」
「彼が聞こうとはしなかったから・・・」シャルロットは少し悲しそうに言った。「たとえ話したとしても、信じてもらえないんじゃないかと思ったんです。彼は、かの女がロビンを愛していたんじゃないかという疑惑を捨ててはいません」
「ロビンは、死ぬまでクラリスのことしか頭になかったからね」
「でも、人生は、情熱だけじゃないと思うんです」シャルロットは真面目な顔で言った。
 ショーソンはそれを聞いてふきだした。「情熱ぬきの人生なんて、ありうるのだろうか?」
 シャルロットは彼をじっと見つめた。しかし、かの女は返事をしなかった。
「それは、本当の人生を知らない人のせりふだな」彼は言った。「・・・ところで、一つだけ聞いてもいい? あなたは、これからどうするの?」
「これから? もちろん、グルノーブルで修行です」
「それじゃ、史上初のジュネスの連続優勝でも狙うの?」
「もう、冠はいりません。グルノーブルには、フランスに来た目的を果たしに行きます」
「目的?・・・ああ、ヴァイオリンの修行ね。でも、ピアニストとして名声を手に入れたあとで、なぜヴァイオリンをしなくちゃならないの?」
「お忘れですか、わたしは、ヴァイオリニストです」シャルロットは真面目な顔で言った。
「あなたは、ピアニストです」ショーソンがやんわりと言い返した。「それも、超一流の」
 シャルロットは首を横に振った。「あなたは、わたしがブロニスワヴァ=スタニスワフスカだということをお忘れですか?」
「いいえ、あなたは・・・」ショーソンは言いかけた。
「わたしは、ポーランドから来たヴァイオリニストです」シャルロットは彼の言葉を遮った。「わたしの恩師のステファンスキー教授は・・・」
 かの女は言いかけて、急に口ごもった。その名前を口にしたとたん、かの女は自分が《悲しき歌》を演奏した理由を思い出した。
「・・・亡くなられたわたしの恩師は・・・」シャルロットの口調が変わった。「・・・彼は、立派なピアニストで、偉大なピアノ教師でした。彼が考えたメソードは、ポーランドでは<ステファンスキー=システム>として知られています。彼の生徒たちは、ピアノ・ヴァイオリン・チェロ・作曲を学びます。ピアニストは、ピアノの音だけを聞いていてはいけない、いろいろな楽器を知ることは、ピアノを弾く上で必ず役に立つとステファンスキー教授は考えました。だから、彼の生徒は、必ずしもピアニストにはなりませんでした。わたしは、彼の弟子たちから、ヴァイオリン・チェロ・作曲を学びました。そして、その結果、わたしは、ヴァイオリニストとしてステージに立ちました」
「<クラコヴィアク>のブローニャの天才少女ぶりは、イグナーツィ=リヒテルから聞いている。確か、《20年に一人出るかでないかというくらいの天才少女だ》という評判だとか。リヒテルを覚えている?」
 シャルロットは首を横に振った。
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