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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第5章

第79回

「音楽家ではないザレスキー一族の少年と、フランショーム家当主の息子は、どうして知り合ったのですか?」クラリスが訊ねた。「まさか、音楽がきっかけじゃないんでしょう?」
「わたしたちは、リセの同級生でした」アルトゥールが答えた。
「同級生って・・・あなたたちは、たしか3つ違いだったはずだわ」クラリスが言った。
「フィルは天才なんですよ。リセでは一緒でしたが、どんどん置いて行かれてしまって・・・」
 アレクサンドリーヌは、ほほえみながら言った。「天才といえば、アルだって負けてはいませんわ。アルも、まだはたちなのに、医者の資格を取ったんですものね」
「フィルは、すでに去年合格していますよ」アルトゥールが苦笑した。「わたしたちは、初めてあったときに、お互いがあの<伝説の>敵同士の生まれだってすぐにわかりました。そして、そればかりではなく、お互いに<できそこない>---わかりますか、フランショーム一族にとっても、ザレスキー一族にとっても、音楽家になれない人は、できそこないとみなされるのです---同士だということもね。だから、わたしたちの間には<ザレスキー=フランショーム戦争>は初めから無縁でした」
 クラリスはびっくりした。「<ザレスキー=フランショーム戦争>ですって!」
 ロベール、アルトゥール、フィルの3人が同時にうなずいた。
「ザレスキー家とフランショーム家がいがみあっていることは御存知でしょう?」ロベールが言った。「その状態を<戦争>と言い表した人がいましてね。この二人を除いて、両家で友情を結んだ人間は、これまで誰もいませんでした」
 アルトゥールは、またにやりとした。「そして、あなたたち二人が、両家に決定的な愛情の橋を架けてくれることを祈っていますよ」
 ロベールとクラリスは真っ赤になった。
「・・・きびしい道になると思いますよ」フィルが言った。「これまで、誰も通ったことがない道ですからね」
 クラリスが訊ねた。「あなたがたは、本当に憎み合ったことがないの?」
「まあ、ないと言っておきましょうか」アルトゥールはにやにや笑いながら答えた。
 逆にフィルは真面目な顔をして答えた。「わたしは、ありますよ。でも、それは、彼の才能に対するねたみじゃありません」
 アレクサンドリーヌの表情がくもった。かの女には、彼の真意がよくわかっていた。
「どういうこと?」ロベールが訊ねた。
「ジュヌヴィエーヴ=ド=ティエ=ゴーロワは、彼を愛しています」フィルが言った。「わたしは、かの女に振られてしまいました。かの女には、アルしかいません。わたしは、彼に比べると、まだまだ子どもなんだそうです」
 アルトゥールはほほえんだ。「ヴィーヴのほうがフィルより年下なのに、ずいぶんな言い方だよね」
 アレクサンドリーヌは、黙って部屋を出て行った。
 クラリスは、アレクサンドリーヌの後ろ姿を黙ったまま見送った。クラリスは、アレクサンドリーヌがフィルを好きなことを知っていたのである。フィルの方がそれに気づいているかどうかはわからなかったが、かの女の前でこの話をするのは、かの女が気の毒だと思ったのであった。
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