年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第45章

第811回

「そうですね、そういうことになりますね」コルネリウスが言った。「でも、ぼくは、負けてよかったと思っています。負けたことで、ぼくは確信しました。ぼくは、音楽以外のことで身を立てるべき人間だということをです。だから、ぼくは、もう過去を振り返りません。未来を見つめていきます」
「もしかすると、きみも町を出るつもり?」
「ええ」
「どうして?」
「ここにいると、破滅してしまうような気がするんです」コルネリウスは正直に言った。
「で、町を出てどうするの?」
「とりあえず、留学するつもりでいます。そのあとのことは・・・まだわかりません」
「計画のない人生は、文字盤のない時計のようなものだ。早く数字を入れるべきだ。それに、そんなにめちゃくちゃに暮らしていたら、恋人が悲しむよ」ショーソンが言った。「むしろ、きみは、恋人のそばにいてあげるべきなのに」
 コルネリウスは少し赤くなった。
「きみは、ここを去るべきではない。かの女が戻ってくるまで、待っていてあげなくては・・・」
「戻ってくる・・・?」コルネリウスの表情が少し硬くなった。
「ユーフラジーは・・・ブローニャは、グルノーブルに行くそうだね?」
 コルネリウスはさらに用心深い表情になった。「かの女は、ユーフラジーじゃありません」
「いや、かの女はユーフラジーだ。そして、きみは、その婚約者だ」
「かの女は、ポーランドから来た留学生で、ぼくの友人です」コルネリウスが言った。
「かの女は、ユーフラジーだ。その証拠に・・・」
「《悲しき歌》ですか?」コルネリウスが言った。「あれは、証拠にはなりませんよ。ぼくが、かの女に楽譜を見せたんですから」
 ショーソンは少し驚いて見せた。
「伯父のロベール=フランショームは、亡くなる直前にぼくを呼び寄せて、こんなことを言いました。『ぼくとクラリスの夢を叶えて欲しい』・・・そして、彼はクラリスさんとの恋と、その悲しい結末を話してくれました。そのあとで、彼は胸元から一通の手紙を取りだして、ぼくに言いました。『・・・いつか、これを、きみの愛する人に渡して欲しい。もし、きみがわたしのように一生独身で終わったら、一緒に墓場に連れて行って欲しい。わたしのように、誰かに夢を託して、その人物にこれを渡してもいいが、何があっても、エマニュエル=サンフルーリィにだけは渡してはいけない』・・・」コルネリウスの声がかすれた。「それは、古い手紙でした。五線紙に、まるで書きなぐったような音符が並んでいて、その裏側に、女性の筆跡の走り書きがあるものです。そして、涙のあとが・・・。誰の涙なのかわかりません。クラリスさんのものなのか、ロベール伯父のものなのか・・・」
 ショーソンは、その話には信憑性があるように思われた。「でも、その楽譜は?」
「ぼくの部屋の引き出しにしまってあります」コルネリウスが言った。「ぼくは、伯父の遺言通りにしようと思いました。シャルロットにあれを見せたのは・・・」
 コルネリウスが真っ赤になったのを見て、ショーソンが続けた。「・・・かの女を愛しているから・・・?」
 コルネリウスは答えなかった。
「・・・<ザレスキー=フランショーム戦争>が終わるのは、時間の問題らしいね」ショーソンが笑いながら言った。「わかった、今の話を信じよう。きみは、かの女に楽譜を見せるだけではなく、そのうちに渡すつもりなんだろう?」
 コルネリウスはかすかにうなずいた。
「若いっていいね」ショーソンはそう言うと、ゆっくりとベル=ジャルディニエール通りの方に抜ける小道を歩き出した。
 コルネリウスの方は、その場に立っていた。
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