シャルロットは立ち止まった。かの女は、自分が無意識のうちに<フラウ=カール=ドルシュキー>の前に立っていたことに気がついた。かの女は、白いバラの幻を見た。パトリックが走ってくる・・・。
「走っちゃだめ、パトリック! 走っちゃだめ!」シャルロットは悲鳴を上げ、幻の方に両手を伸ばし、気を失った。バラが手から落ちた。
「シュリー!」コルネリウスの二本の腕が、シャルロットをしっかり抱いた。「どうしたの、しっかりして!」
「・・・ドンニィ・・・?」シャルロットは気がついた。まだ脅えた顔をしていた。
「どうしたの、ロッティ?」
シャルロットは無言のままだった。
コルネリウスは、かの女から手をはなした。そして、かがんで、足元のバラを拾った。「・・・ラ=メーゾン=ブランシュのバラも、もうそろそろ終わりだね」
「シューザンが言っていたとおりだわ。ぼくが死んでも、ここのバラは咲くだろう、って・・・」
「どう、落ち着いた?」
「どうやら、落ち着いたみたい」シャルロットが答えた。「・・・ここは、あの白バラの前なのよ。パトリックのことを考えていたら、突然、あなたが走ってくるんですもの・・・」
「まだ、ショックから立ち直れないみたいだね」
「ええ、きっと時間がかかるでしょうね」シャルロットは小さな声で言った。
コルネリウスはシャルロットを見つめながら言った。「行くことにしたの・・・?」
シャルロットは、彼が最後まで言うのを待たなかった。「ええ、そのつもりよ」
「ぼくに、さよならを言わないつもりだったの?」
「ええ、そのつもりだったわ」
「どうして?」
シャルロットは少し間を取ってから答えた。「あなたに、さよならを言う必要があるかしら?」
コルネリウスは、かの女の言葉の意味がわからなかったので、黙っていた。
「わたし、あなたにさよならと言ったことがあった?」シャルロットが言った。「わたしたちは、再会する必要があるのよ。永遠の別れをするわけじゃないし、永遠に旅をしているわけでもない。わたしは、旅をしているけど、いつかまた会える旅なのよ。わたしは、黙って姿を消すべきなの。それは・・・」
シャルロットはそう言うと、ちょっとはにかんで続けた。「・・・それは、わたしたちは、本当はいつも一緒だということよ」
コルネリウスは、その返事を聞き、持っていた黄色のバラにそっと口づけした。
シャルロットは驚いたようにそれを見つめた。
「昔、きみにこんな黄色のバラをもらったことがあったね。覚えている?」コルネリウスが訊ねた。
シャルロットはうなずいた。「ええ。あのバラの名前は<スーヴニール>だったわ。これは、<ソレイユ=ドール>っていうんですって」
「<ソレイユ=ドール>?」コルネリウスは空を見上げた。その視線は、もう一度かの女の方に降りた。「このバラをもらってもいい?」
シャルロットはもう一度うなずいた。
「黄色のバラの花言葉を知っている?」コルネリウスが訊ねた。
シャルロットはうなずき、さらに赤くなってうつむいた。
かの女が顔を上げたとき、コルネリウスはすぐ近くに立っていた。彼はちょっとためらったあと、かの女の体に左手をまわし、右手でかの女の顎を持ち上げて上を向かせ、自分の唇をかの女の唇に重ねた。
「走っちゃだめ、パトリック! 走っちゃだめ!」シャルロットは悲鳴を上げ、幻の方に両手を伸ばし、気を失った。バラが手から落ちた。
「シュリー!」コルネリウスの二本の腕が、シャルロットをしっかり抱いた。「どうしたの、しっかりして!」
「・・・ドンニィ・・・?」シャルロットは気がついた。まだ脅えた顔をしていた。
「どうしたの、ロッティ?」
シャルロットは無言のままだった。
コルネリウスは、かの女から手をはなした。そして、かがんで、足元のバラを拾った。「・・・ラ=メーゾン=ブランシュのバラも、もうそろそろ終わりだね」
「シューザンが言っていたとおりだわ。ぼくが死んでも、ここのバラは咲くだろう、って・・・」
「どう、落ち着いた?」
「どうやら、落ち着いたみたい」シャルロットが答えた。「・・・ここは、あの白バラの前なのよ。パトリックのことを考えていたら、突然、あなたが走ってくるんですもの・・・」
「まだ、ショックから立ち直れないみたいだね」
「ええ、きっと時間がかかるでしょうね」シャルロットは小さな声で言った。
コルネリウスはシャルロットを見つめながら言った。「行くことにしたの・・・?」
シャルロットは、彼が最後まで言うのを待たなかった。「ええ、そのつもりよ」
「ぼくに、さよならを言わないつもりだったの?」
「ええ、そのつもりだったわ」
「どうして?」
シャルロットは少し間を取ってから答えた。「あなたに、さよならを言う必要があるかしら?」
コルネリウスは、かの女の言葉の意味がわからなかったので、黙っていた。
「わたし、あなたにさよならと言ったことがあった?」シャルロットが言った。「わたしたちは、再会する必要があるのよ。永遠の別れをするわけじゃないし、永遠に旅をしているわけでもない。わたしは、旅をしているけど、いつかまた会える旅なのよ。わたしは、黙って姿を消すべきなの。それは・・・」
シャルロットはそう言うと、ちょっとはにかんで続けた。「・・・それは、わたしたちは、本当はいつも一緒だということよ」
コルネリウスは、その返事を聞き、持っていた黄色のバラにそっと口づけした。
シャルロットは驚いたようにそれを見つめた。
「昔、きみにこんな黄色のバラをもらったことがあったね。覚えている?」コルネリウスが訊ねた。
シャルロットはうなずいた。「ええ。あのバラの名前は<スーヴニール>だったわ。これは、<ソレイユ=ドール>っていうんですって」
「<ソレイユ=ドール>?」コルネリウスは空を見上げた。その視線は、もう一度かの女の方に降りた。「このバラをもらってもいい?」
シャルロットはもう一度うなずいた。
「黄色のバラの花言葉を知っている?」コルネリウスが訊ねた。
シャルロットはうなずき、さらに赤くなってうつむいた。
かの女が顔を上げたとき、コルネリウスはすぐ近くに立っていた。彼はちょっとためらったあと、かの女の体に左手をまわし、右手でかの女の顎を持ち上げて上を向かせ、自分の唇をかの女の唇に重ねた。
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