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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第45章

第814回

 シャルロットはびっくりして、彼の腕をすり抜けた。
「ロッティ」コルネリウスは、シャルロットの足元にひざまずいた。「今のぼくは、演劇コンクールの時のアラン=ドルスタンスではない。きみの婚約者のコルネリウス=ド=ヴェルクルーズだ」
 シャルロットは震えていた。かの女は、自分の心の中を整理しようとしていた。何も言葉が出てこなかった。
「きみは、さっき、黄色いバラの花言葉を知っていると言ったよね。それを知っていて、ぼくにバラをくれたんだよね。だから、ぼくは返事をしたんだよ。《ぼくも、きみを愛しているよ》って・・・」コルネリウスが続けた。「ね、シュリー、怒っているの? ぼくは、今ほど真面目になったことはない。こんなことをしたぼくを罰したければ、罰しても構わない。でも、嫌いだって言うのだけはやめてくれないか?」
 シャルロットは、コルネリウスに謝られたのはこれが初めてだと思った。人に謝ることがないド=ヴェルクルーズ家の人が謝る様子は、異様でさえあった。しかし、彼らが謝ると、なぜか、許さなければならないような気分になるのだった。
「・・・でも、ぼくは、こんなことをしたことを後悔はしていない。きみが好きだからだ」コルネリウスは、顔を上げ、かの女の目をのぞき込んだ。
「・・・好きだからって、いきなり・・・」シャルロットは、やっと言葉が出た。
「怒っている?」
「・・・びっくりしただけ・・・」シャルロットは小さい声で言った。「お願いだから、立ってちょうだい・・・あなたが悪いわけじゃないわ、ドンニィ」
「本当に怒っていない?」コルネリウスは、子どもっぽい表情を浮かべて訊ねた。
「怒っていないわ。あなたを愛しているんですもの」シャルロットはそう言って目を伏せた。
 コルネリウスは、やっと緊張が解けたような晴れ晴れとした表情になった。そして、彼は立ちあがった。
「ぼくたちは、ずっと一緒だよ。どんなに離れていても、一緒なんだ」コルネリウスはそう言うと、自分の小指にはめられていた指輪をはずし、かの女の左手を取った。
 シャルロットは、手を引っ込めた。
「どうしたの? なぜ手を引っ込めるの?」
 シャルロットは、彼を見上げた。「あなた、昨日、あれを聞いたはずよ・・・」
「<指輪>を?」コルネリウスが言った。「聞いた。だけど、ぼくは、きみを信じている。《ある日、よそからやってきた若者》のほうにきみの心が向いてしまうとは、ぼくには思えない。たとえ、その若者の名前が、ヴィトールド=ザレスキーであっても・・・」
 シャルロットは、彼の口から飛び出した名前に驚いた。「・・・ヴィトールドですって? あなた、まさか、ヴィトールドに嫉妬しているの?」
「していないと言えば、嘘になるよ」コルネリウスが答えた。「・・・いや、彼にだけは嫉妬している」
 シャルロットは少し考えた。なぜ、ほかの誰かではなくヴィトールドなのだろう? そして、その答えがわかった。
「ロザリオのことね?」シャルロットが言った。「あれは、地下牢にいるときに彼にもらったの。<希望>という名前なんですって。彼は、わたしに希望を持つようにって言ったの。・・・わたしと彼の間には、それ以上のものはないわ。それどころか、彼は、あなたがわたしを愛していると教えてくれたのよ。彼は、ザレスキー家のリーダーとして、わたしとあなたが結ばれるように応援しなければならない立場なのよ」
《そうだよ。そのとおりだ。だけど、理屈でわかっていても、感情をコントロールするのは難しいんだよ》コルネリウスはそう思った。《彼は、きみを愛している。きみは、それに本当に気づいていないの?》
「あなたは、わたしが信じられない?」シャルロットはコルネリウスの目をのぞき込んだ。
「本当にそれだけなんだね? きみが愛しているのは、ぼく一人だね?」
「もちろんよ」
「この指輪には、ぼくの名前が刻んである」コルネリウスが言った。「ド=ヴェルクルーズ家には、名前入りの指輪をはめた女性は、必ずその名前の男性と結ばれる、という言い伝えがある」
「だけど、わたしがもらってもいいの?」
「ぼくが妻にしたいと思うのは、きみだけだ」
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