年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第45章

第815回

 シャルロットの脳裏に、昨日、クレマン=バレが歌ったクラリスの歌曲の歌詞がよぎった。ポーランドの詩人、ステファン=ヴィトヴィツキーが書いた恋人たちの物語。ある男が、幼なじみの女の子を愛していた。彼は、かの女の左手の小指に銀の指輪をはめる。ところが、その女の子は、《ある日、よそから来た若者》に心を動かし、彼を捨ててしまうのだ。
「さあ、<指輪>の歌がでたらめだ、ということを二人で示そうよ。この指輪は銀製だし、小指にはめれば条件はそろう。だけど、ド=ヴェルクルーズの名前がある限り、ぼくたちは、きっと結ばれる」コルネリウスは、もう一度シャルロットの手を取った。かの女は、もう手を引っ込めなかった。彼は、かの女の左手の小指に指輪をはめた。「これで、きみは、いつもぼくと一緒だ」
 シャルロットは指輪を見つめた。「大きすぎるわ、この指輪」
 コルネリウスは、かの女の手から指輪を取った。そして、ポケットから取りだした銀色をした鎖に指輪を通した。
「指にはめられるようになったら、はめるといい。こうすれば、指輪は、いつもきみと一緒だ。ぼくは、きみから離れたと思わなくても済む」
 シャルロットは、彼が指輪のついた鎖をかの女の首にかけたとき、やっとほほえみを取り戻した。
「ドンニィ、わたし、このほうがいいわ」
「いや、指輪というものは、指にはめるものだ」コルネリウスはあっさり言い返した。
 そして、二人は見つめ合った。
「・・・離れるって、どういうこと?」シャルロットが訊ねた。「わたしがあなたから離れるのではなく、あなたがわたしから離れるってどういうこと?」
「誰にも聞いていない?」コルネリウスがシャルロットを見つめた。「・・・そうか。ぼくの口から直接話せてよかった。実は、ぼくもミュラーユリュードを離れる」
 シャルロットは驚いて彼を見つめた。
「来月から、ぼくはドイツに行く。交換留学生として、1年間---場合によっては2年間---向こうの学校に行くことになった。まさか、ぼくが選ばれるとは思っていなかったんだけど・・・」コルネリウスが言った。
「2年間?」シャルロットは絶句した。「そんなに長い間?」
 コルネリウスはほほえんだ。「長くはないさ。ぼくたちは、もっと長い間離れて暮らしていた」
 シャルロットは少し驚いたが、ほほえみかえした。
「心配いらないよ。ぼくは、命を狙われるようなことはないし」彼はにやりとした。「帰ってきて、サン=シールを受験する、なんて言い出すことは絶対にしないから」
 シャルロットは苦笑した。「まあ・・・」
「自分がどう生きるべきか、決めて帰ってくるつもりだ」コルネリウスが言った。
 シャルロットは、自分の黒いリボンを髪から取った。そして、それをコルネリウスの左手首にまいた。
「わたしには、あなたに渡せるものがないわ。あなたがわたしといつも一緒だと思えるようなプレゼントが・・・」シャルロットが言った。「せめて、こんなものでも、わたしの記念としてもらってちょうだい」
 コルネリウスは、シャルロットを自分の方にもう一度引き寄せた。しかし、かの女は、彼の手からするりと抜けた。
「ドンニィ、今度会うときは、大きくなっていましょうね!」シャルロットは、そう言って駆け去った。
 コルネリウスは、かの女が去っていった方をいつまでも眺めていた。
 彼は、ドイツに行く前にシャルロットにもう一度会うことはしないだろうと思った。
 シャルロットの方も、もう一度会いに来ることはないだろう。
 二人には別れの言葉はいらない。いつも一緒なのだから。
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