FC2ブログ

年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第5章

第80回

 翌日、オーケストラの全員が久しぶりにそろった。
 クラリスは、全員に書き上げたばかりのパート譜を配った。最後に、指揮者のエマニュエルにスコアを渡した。
 エマニュエルはスコアをさっと眺めた。そして、不思議そうに訊ねた。
「・・・これで、全部ですか?」
 クラリスは首を横に振った。「さすがね。あなたには、全部お見通しなのかしら?」
 そして、クラリスは全員に向かって言った。
「これから、オーケストラを二つに分けます。第二オーケストラのコンサートマスターは、ムッシュー=フランクにお願いしてもいいでしょうか?」
 全員、びっくりしていた。
「オーケストラの分割は、あなたにお願いするわ、ムッシュー=スタニスワフスキー」クラリスはコンサートマスターに声をかけた。
 金髪の若いコンサートマスターがうなずいて立ちあがった。
 クラリスは、エマニュエルにもう一つのスコアを見せた。
「・・・なるほど。でも、この曲には、この人数では少なすぎますね」エマニュエルが感想を述べた。
「わたしは、全体の響きを確認したいだけです。ここで初演するときには、第二オーケストラの分はピアノで演奏することになるでしょう。この人数では、3台のピアノにオーケストラが負けてしまいます」
 エマニュエルはうなずいた。
「・・・で、最後のピアニストは、フランク夫人にお願いしようと思っています」クラリスが続けた。「そして、最終楽章には、合唱を入れようと思うんです」
 エマニュエルはちょっとほほえんだ。「ベートーヴェン風にですか?」
 クラリスもほほえんだ。「<友よ、このような音楽ではない>ってね」
 それを耳にはさんだゴーティエが思わず吹き出した。「じゃ、どのような音楽を?」
 クラリスは、質問には答えずに、フランク氏の方へ歩き出した。
 エマニュエルは、たった今クラリスが口ずさんだメロディーを口笛で吹いた。
 それから、真面目な顔をしてゴーティエの方を向いた。
「・・・ゴーティエさん、合唱団はどうしますか?」エマニュエルが訊ねた。
 ゴーティエはちょっと考えて答えた。「パリで初演されるときには、ちゃんと準備しましょう」
 エマニュエルはくすっと笑った。
「とりあえず、オーケストラのメンバーからはずれた客人に声をかけてみます」ゴーティエが答えた。「4人は集まりそうですよ」
「それで十分だとはいえませんが」エマニュエルが言った。「しかたないでしょうね、今回は」
 ゴーティエはうなずいた。「これ以上、編成が大きくならないといいのですが・・・」
 エマニュエルはほほえんだ。「・・・パリでは、正式な編成で演奏しましょう、ゴーティエさん」
 二人は、そんなジョークを言い合っていたが、この交響曲が正式な編成で演奏されるのは、クラリスの死後のことであった。もちろん、今の二人はそんなことを知るよしもなかった。彼らは、クラリスの作品が自分たちの手に余るほど巨大な曲になるとは思っていなかったのである。
関連記事
 関連カテゴリ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
もくじ  3kaku_s_L.png データベース
もくじ  3kaku_s_L.png 設定
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
  ↑記事冒頭へ  
*Edit
  ↑記事冒頭へ