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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第48章

第853回

 ノルベールは真剣な顔をした。「ええ、確かに過去形でした。でも、それがどうかしたんですか? 今では、かの女は醜いとか、ぶかっこうだとか・・・まさか、あなたは、かの女をそう評するんですか?」
 オーギュストは真面目な顔をした。「もちろん、そんなつもりはありません」
「かの女は、アレクサンドリーヌ夫人のいとこの娘さんなんですってね。アレクサンドリーヌ夫人は、とても美しい目をしていたと聞いています。そして、その娘さんも同じ目の持ち主だったとか」ノルベールが言った。「かの女は、本当は、とても美人なんでしょう?」
「美男子だと言われた方が、本人は喜ぶと思いますよ」
 ノルベールは、<本人>という言葉が男性名詞だったことに驚いた。
「シャルロットから聞いていないのなら、ぼくからお話しします」オーギュストが言った。「実は、アレクサンドリーヌ夫人のいとこの娘というのは、ぼくのことなんです」
「あなたが、オーギュスティーヌ嬢?」ノルベールはあぜんとした。「まさか。オーギュスティーヌ嬢は、とてもかわいらしいお嬢さんで・・・」
「ぼくとは、似ても似つかない?」オーギュストはまた笑い出した。
 そのとき、そこを通りかかったドニ=フェリーがノルベールに言った。
「信じられないでしょうが、彼の言うことは本当ですよ」
 ノルベールは、ドニの方を見てはっとした。オーギュストはともかくとして、この少年は間違いなく美男子といわれる部類の人間だ。
「リュミエールさん、この人は、アレクシス役のドニ=フェリーです。彼とぼくとは、同じ屋敷で育った仲です」オーギュストがドニを紹介した。「ドニ、この方は、劇の原作者ベネディクト=リュミエール氏だ」
「お目にかかれて光栄です、ムッシュー=リュミエール」ドニが挨拶した。彼のきれいな発音を聞き、ノルベールは彼が主演男優賞を取るのももっともだと思った。彼は、姿形だけではなく、声もすばらしい。
「よろしく、ムッシュー=フェリー」ノルベールも挨拶を返した。「すばらしいアレクシスを演じてくれて、とてもうれしいです」
 ドニの顔に少し赤みがさした。
「ぼくが女の子として育てられたのには、わけがありました」オーギュストが言った。「母がぼくを身ごもったとき、母の配偶者は、ぼくを自分の子どもだと信じたんです。母と彼の間には、子どもがいませんでした。本当はいたのですが、赤ん坊の時亡くなったと聞いています。それで、彼は、もし生まれてくる子どもが男の子だったら、その子どもを引き取った上で離婚に応じると言ったそうです。跡継ぎが欲しかったからです。母は、離婚したかったけれど、その代わりに子どもを手放す気にはなれませんでした。かの女は、ぼくが生まれたとき、とっさに女の子だと嘘の報告をしたそうです。そして、アルトゥール=ド=ヴェルクルーズの娘として、女の子の名前を付けられました。オーギュスティーヌ=ド=マルティーヌと。ですが、自分が育てたのでは、夫に嘘がばれてしまうのは時間の問題でした。それで、かの女は信頼できる人間にぼくを預けようとしたのです。それが、いとこだったアレクサンドリーヌ夫人でした」
 ノルベールは黙っていた。
「アレクサンドリーヌ夫人は、ぼくを女の子として育てることに同意しました。でも、ぼくをかわいがってくれたのは、むしろ、かの女の夫の姉であるクラリス=ド=ヴェルモンでした」オーギュストは言った。「かの女は、ぼくを育て、あらゆることを教えてくれました。ぼくが作曲家を志したのは、かの女の影響でもあります」
「そして、最優秀作曲家賞を受賞するまでになった」ドニが口をはさんだ。
「クラリスは、フランショーム家の人間に育てられたザレスキー一族で、ぼくは、ザレスキー一族に育てられたフランショーム一族なのです」オーギュストが言った。「両親が亡くなり、ぼくは初めて本当の名前を名乗ることができたのです。父は、最後までぼくが彼の息子だとは認めませんでした。ですから、ぼくも、彼の息子だとは名乗りません。・・・ぼくの人生も、かなり波瀾万丈です。そのうち、小説にして下さいますか?」
「きみがもう少しハンサムだったら、主人公になれるところだが」ドニは冗談めいた口調でそう言うと、その場を去っていった。
「ハンサムかどうかはともかくとしても、その権利は、ぼくよりはあなたのお兄さまの方にありそうですよ」ノルベールが言った。「あるいは、あなたのまたいとこに」
「シャルロットが、ぼくを主人公にしてくれるものですか」オーギュストが言った。「かの女には、ヒーローがいるんですからね」
 ノルベールは、彼を見つめていた。「あなたの目は、本当に美しいんですね。シャルロットが言っていましたよ。《お天気がいいときの空に、溶かした太陽を混ぜたような色》・・・でしたっけ? もし、あなたが女性なら、可憐なすみれのような色、と評するところでしょうね」
「でも、シャルロットの目の方が美しいですよ」オーギュストは夢見るような口調で言った。
 ノルベールは心の中でその意見に同意していた。
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