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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第48章

第854回

 劇の練習が終わったあと、ノルベール=ジラールは校内を案内して欲しいと頼んだ。クロード=ヴァラースは、案内人としてフランソワ=ジュメールを指名した。ノルベールは、すでにステージでフランソワを見ていた。フランソワは、エティエンヌの役だった。エティエンヌという少年は、<ローザンヌ物語>の中のどの作品にも登場していないオリジナルの人物だった。ただ、ノルベール以外の皆がそのモデルの少年を知っているようだった。ノルベールは、彼にその話を聞きたいと思った。
 しかし、フランソワが話し出したのは、まったく別の話だった。彼は、小説家ギュスターヴ=フェラン(ヴィトールド=ザレスキー)の学生時代の話を始めたのである。
「各学年の7組というクラスは、外国人たちのクラスです。6年7組にはほとんどフランス人はいませんが、留年した生徒たち全員と飛び級した生徒のほとんどが7組に加わるので、6年生以外は7組の生徒が一番多い、という構成になります。そして、毎年2年7組の人数が一番多いのです。というのは、2年生が一番進級が難しいからです。そういうわけで、ぼくは、2年7組を3回経験しました」フランソワが話し出した。「ぼくは、6年生から2年生まで5年間、ギュスターヴ=フェランと同じクラスでした。彼は、入学するときの成績が2番だったのです。大変な秀才でしたが、なんせ外国人ですからフランス語があまり上手ではありません。この学校では、外国人のためのフランス語の補習授業があります。その担当の先生は、ギュスターヴ=ニコルという名前でした」
 ノルベールは、ギュスターヴ=フェランという名前の由来は、その人物だと思った。しかし、口をはさまなかった。
「ニコル先生は、フランス語という言語が<書き言葉>に特徴があるという持論を持っていました。ですから、彼は、生徒たちに文章を書かせる宿題を出しました。ぼくは、寮でヴィトールドの同室でしたから、彼がその宿題で頭を痛めていることをよく知っていました。彼は、頭がいい少年でしたから、ぼくに宿題をさせる方法をいくつも思いつきました」フランソワはにやりとした。「でも、ぼくは、だんだん彼の魂胆がわかるようになり、宿題をかわりにやることを拒否するようになったんです。すると、彼はこんなことを言いました。『きみは、フランス人だから、フランス語の作文なんか簡単にできるだろう。ぼくは、フランス人じゃないから、書きたいことがあっても、フランス語でうまく書くことなんかできない。ぼくは、決して楽をしようとしているわけじゃない』そして、悔し紛れにこう続けたんです。『ためしに、きみがポーランド語で作文を書いてみればいいんだ』---ぼくは『やってやろうじゃないか』と答えました。そして、二人だけの語学レッスンが始まったんです」
「じゃ、あなたも、ポーランド語ができるんですね?」ノルベールが訊ねた。
「ポーランド語で夢を見るくらいにね」フランソワが笑いながら答えた。「たぶん、一生役に立つことはなさそうな知識ですが」
「サント=ヴェロニック校にいるうちは、役に立つでしょう?」
 フランソワはうなずいた。「たぶん」
 そして、フランソワは話を続けた。「彼は、4年生の時、最初の小説を書きました。そして、彼のペンからはいくつかの作品が生まれました。彼が選んだペンネームはギュスターヴ=フェランでした。ギュスターヴは、ニコル先生の洗礼名、そしてフェランというのは、ニコル先生の出身地クレルモン=フェランから取ったものです。彼は、その年に定年退職で学校を去ったニコル先生のことをとても尊敬していたんです」
 ノルベールは、会ったことがない<ニコル先生>を想像した。きっと、白髪で品がいい優しい先生だったに違いない。生徒に好かれているが、フランス語に対しては厳しい先生だったのだろう。そうでなければ、あれだけのフランス語を2年でマスターできたとは思えない。
 二人は、ソサイエティ=ホールの前に着いていた。フランソワは立ち止まり、ホールの入り口にあった黒い石を指さした。
「ここに、たくさんの名前が彫ってあります。サント=ヴェロニック校を優秀な成績で卒業した人たちの名前、卒業年、成績が刻まれています」フランソワが言った。「ぼくたちの同期生は、<1906年組>として秀才の集まりといわれていました。1913年卒業生は、3人の名前が刻まれているでしょう?」
 ノルベールはその数字を見てぎょっとしたようにフランソワを見た。
「・・・まさか、1700点満点じゃないでしょうね?」
「もちろん、1700点満点です」フランソワが誇らしげに言った。
 そこに刻まれていた二つの名前をノルベールは驚いて見つめていた。

 第一位 ルイーズ=シャルロット=クリスティアーヌ=ステファニー=チャルトルィスカ 1699点
 第二位 ヴィトールド=タデウシ=アンジェイ=ザレスキー 1698点



 この二人の点数だけは、歴代の卒業生たちより10点以上高かった。
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