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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第5章

第83回

 アレクサンドリーヌ=ド=ティエ=ゴーロワが失踪してから5日後の朝のことであった。
 その朝、クラリスは、できあがった交響曲をここで初演するための編曲とパート譜作成を終えた。親友が行方不明になって以来、何かに没頭していたかったのである。そして、一人きりで閉じこもっている理由がなくなったので、楽譜を抱えて部屋を出ようとしていた。
 ドアを開けたところに、ルイ=フィリップがためらいがちな様子で立っていた。彼の様子では、ずっとそこに立っていたようである。どうしてノックをしてくれなかったのだろうか、とクラリスは思った。
 しかし、クラリスが口を開く前に、ルイ=フィリップが言った。
「・・・クラリス、ぼくは、パリに戻ります・・・」ルイ=フィリップは泣いていた。「・・・こんなときに、ここを去りたくはないのですが・・・」
 クラリスは、びっくりして弟を見つめた。
 彼は、一通の電報をクラリスに差し出した。それには、彼らの父親プランス=シャロンが事故で瀕死の重傷を負ったという事実が書かれていたのである。
 クラリスは顔を上げた。
「リネットのこと、頼みます。ぼくは、行かなくちゃならない・・・」彼は涙ながらに訴えた。
 クラリスは再度電報を見た。そして、思わず首をかしげた。「・・・どうして、フランソワーズおばさまが・・・?」
 差出人はフランソワーズ=ド=ラヴェルダンだった。クラリスは、ちょっとした違和感を感じた。
 泣いていたルイ=フィリップの方は、クラリスの疑問には気づかなかった。
「わたしは、今すぐには行けない・・・」クラリスが言った。「お願い、フィル。わたしのかわりに・・・。でも、わたしは・・・わたしは、親友のことが心配なの。ここを離れるわけにはいかないわ」
 ルイ=フィリップはうなずいた。そして、その場を去っていった。
 クラリスは、シャロンを自分の父親だと認識できずにいた。このような事態になっても、彼の元に駆けつけるより、親友の安否の方が気がかりだったのである。とはいっても、電報の内容は、かの女には衝撃的なものだったのである。かの女は、自分の感情を整理する必要を感じていた。
 かの女は、楽譜を抱えたまま庭に出た。そして、そこに集まったメンバーにパート譜を配り始めた。
「・・・みなさん、これが最終稿です。オーケストラ1つ、ピアノ3台、ソリスト4名・・・ここでの初演は、この形で行います」クラリスはそう説明し、エマニュエルにスコアを渡した。
 エマニュエルはスコアを受け取った。彼だけは、この交響曲の「本当の」最終稿を知っていた。そして、できる限り作曲家の意図通りの演奏をしようと思っていたのである。
「あす、リハーサルを行います。今日は、各自で練習して下さい」クラリスが言った。
 そして、クラリスはその場から去ろうとした。
 エマニュエルとゴーティエは、その後ろ姿を眺めていた。彼らだけは、かの女に何か起こったことに気がついていた。そして、一人にしてあげよう、と同じ選択をしたのである。
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