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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第1章

第9回

 後に、テオドール=フランクは、ソフィー=マリアンヌ=ティボーに一目惚れしたのだ・・・と回想している。ただ、彼はとても不器用な人間だった。これまで女性とつきあったことがない彼は、かの女に対してどうしていいかさっぱりわからなかったのである。そして、相談する相手がいなかったのだ。 
 フランソワーズは、この二人を結びつけようと決心した。
 まず、理由をつけて初演の日取りをのばしたのである。「まだまだ息が合わないわね」と、二人で練習する時間を増やそうとしてみた。
 テオドール=フランクのほうは、フランソワーズが自分に味方していることを察した。マリアンヌは、ケチをつけられたとばかり、相手のヴァイオリニストを恨みがましく思っただけであった。かの女には、テオドール=フランクという人間の価値が、まだわからなかったのである。
 コンサートが終わって数日後、テオドール=フランクは、思い切ってマリアンヌを食事に誘った。
 彼は、一大決心をして、大きな花束を持って出かけた。
 かの女は、その花束を見て顔色を変えた。
「あなた、まさか、それをわたしに・・・?」かの女は、彼が差し出した花束を受け取るなり、それで彼の顔をひっぱたいた。そして、ぼうっと突っ立ったままの彼の足もとにその花束をたたきつけ、帰っていったのである。
 マリアンヌは、その足でフランソワーズのところに向かい、一部始終を語り、泣き出したのである。
「彼ったらね、白い菊の花束なんかよこしたのよ。なぜ白い菊なの? お墓参りにでも行くつもり?」
・・・フランソワーズは、思わずふきだしそうになった。なんて不器用な男なのだろうか!
「・・・これまでの人生で、こんな侮辱を受けたのは初めてよ。ひどい話よねえ?」マリアンヌは泣き続けた。
 フランソワーズは親友を慰めて送り返した後で、笑い出した。不謹慎だが、こんなにおかしい話があるだろうか?
 女性とつきあったことがないこのぶきっちょな男は、女性が喜びそうな気の利いた贈り物を何も考えられなかったのだ。女性がどんな花を気に入るかなんて、まったく知らなかったのだろう。それにしても、よりにもよって、白い菊の花とは! 墓参りじゃあるまいし、なぜ、菊など選んだのだろうか? ほかに、何か思い浮かばなかったものだろうか?
 数日後、かの女はテオドールがベルギーへ帰ったと聞かされた。
 かの女は、テオドールに手紙を書いた。
<本当にマリアンヌのことを愛しているのなら、あきらめてはいけない。戻ってくる勇気があれば、必ず力になります・・・>
 テオドール=フランクは、フランソワーズの前に現われた。
 その数ヶ月後、マリアンヌはフランク夫人と名乗るようになった。
 そして、フランク夫妻は、そろってベルギーへ帰っていった。彼らがフランスへ戻ってくるのは、それから数年先のことである。
 その後、このエピソードを知る人たちは、フランク夫人というと「白い菊の花」を連想するようになるのである。
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