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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第49章

第881回

 翌朝早く、セザール=ヴェルネがサヴェルネ家にやってきた。
 ドアを開けたサヴェルネは、友人の顔つきに驚いた。ヴェルネはあきらかに走ってきたようだったが、その顔色は真っ青だったのである。
 サヴェルネは、彼を中に入れようとした。
 しかし、ヴェルネは中に入ろうとはしなかった。
「急いできて欲しい。マダム=フランクが・・・」ヴェルネは声をつまらせた。
「・・・フランク夫人が、どうかなさったの?」続いて現われたサヴェルネ夫人は驚いて訊ねた。
 シャルロットもドアのところに行った。
「マダム=フランクが、亡くなられた」ヴェルネはそう言うなり、わっと泣き出した。
「亡くなられた? まさか!」サヴェルネは驚いて叫んだ。
 サヴェルネ夫人は、思わずシャルロットを抱きしめた。
「お願いだ、とにかく、来て欲しい」ヴェルネが言った。「とにかく、一緒に来て欲しい」
 サヴェルネは、友人の肩を抱いた。彼の目にも涙があふれてきた。
「信じない。そんなの、嘘に決まっている」サヴェルネが言った。
 四人ともその場で泣いた。
「・・・とにかく、フランク家に行かなければ」サヴェルネ夫人が言った。
 その声で、ほかの三人もわれに返った。
 四人は、そのままフランク家に向かった。
 フランク夫人は、二階の自室のベッドに横たわっていた。ヴェルネ夫人の手によってきれいに化粧されていたその表情は、無邪気な表情で眠っている幼子を思わせた。
 その枕元にフランク氏はひざまずいていた。彼は、かの女の手を握りしめたまま、まるで彫像のようにじっと動かなかった。彼の目に涙はなかった。ただ、ぼうぜんとしているだけだった。
《あなたが悪いんじゃないの、クラリス》
 シャルロットは、フランク夫人の声を聞いた。
《あなたが悪いんじゃないのよ、クラリス・・・》
 シャルロットの目に涙がたまった。
 そのかの女の肩を、ヴェルネ氏がそっとたたいた。
「・・・まさか、自分を責めているんじゃないだろうね、シャルロット?」ヴェルネが言った。
 シャルロットは彼を見上げた。その目をのぞき込んだ彼は、まさにかの女がそうしていることに気づいた。
「フランク夫人は、生涯で一番すばらしい誕生日を迎えられたんだよ」ヴェルネが言った。
 シャルロットはゆっくりと首を横に振った。
「そうよ、その通りだわ」ヴェルネ夫人が言った。そして、かの女は優しくシャルロットを見つめた。「ありがとう、あなたが来てくれたから---あなたがあれを演奏してくれたから、かの女は幸せになれたのよ」
 シャルロットはヴェルネ夫人を見つめた。ヴェルネ夫人は青ざめた顔にほほえみを浮かべた。
「わたしは、フランク夫人を、自分の本当の母親以上によく知っているわ」ヴェルネ夫人の口調は優しかった。「かの女は、自分の娘のようにわたしを愛してくださった・・・。その娘が言う言葉を信じなさい」
 シャルロットはまだ黙ったままだった。
「もし、誰かを愛したことがあるのなら、あなたにもわかるはず」ヴェルネ夫人が言った。「その男性の心からの愛を信じられたら、これ以上の幸せはないはずよ」
 シャルロットはうなずいた。そして、首に下げているネックレスを握りしめた。
「かの女は、その愛を受け取ったの」ヴェルネ夫人が言った。「フランク氏によって。あなたとサヴェルネ夫人によって・・・」
 そして、ヴェルネ夫人はかの女を抱きしめた。「フランク夫人は、心の底から満足していたはず。だから、悲しんではいけないわ。自分を責めてはいけないわ」
 そう言いながらも、ヴェルネ夫人の体は小刻みに震えていた。
「・・・そう、泣いてはいけないのよ・・・本当はね・・・」ヴェルネ夫人はそう言い、シャルロットと抱き合って泣いた。
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