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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第5章

第87回

「・・・それで、シャロンさんは・・・?」クラリスが訊ねた。
 フランソワーズとアレックスは、クラリスが実の父親を他人のように呼ぶのを聞いてびっくりした。
「まだ、意識が回復しないんです」フィルが答えた。「手紙に書いたとおり、父は、若いお嬢さんが馬車の前に飛び出そうとしているのをかばおうとして、怪我をしました。病院に運び込まれてから、一度も意識を取り戻していません。担当のクルピンスキー医師は、このまま意識が戻らないかもしれない・・・と考えています。普通の人だったら、もうとっくに・・・死んでいてもおかしくないくらいの重症だそうです。生きているのが不思議なくらいだという話です」
「・・・ですが、これだけの生命力なので、もしかすると、彼の意識が戻るんじゃないか、と期待しているの」フランソワーズが言った。「彼は、これだけの奇跡を起こしたんです。さらに、奇跡が起こらないとは言えないでしょう?」
 クラリスはうなずいた。
「それで、お嬢さんのほうなんですが、年齢、特徴がリネットにそっくりなんです」フィルが言った。「かの女も意識が戻らないので、確認できずにいるのです。おまけに、顔に怪我をして、包帯をしているので、見ただけではわかりません。家族でない、ということで、医者も会わせてくれないのです。ですから、あなたに手紙を出しました。家族なら、確認できるんじゃないかと思って・・・」
「ゴーティエとジュヌヴィエーヴが一緒に来ているわ。彼らと一緒なら、会わせてもらえるんじゃないかしら。わたし、ちょっと見てきていいかしら?」クラリスが言った。
 フィルはうなずいた。
「クラリス、涙を拭きなさい」フランソワーズが言った。「お友達を驚かせてはいけないわ」
 クラリスは、ハンカチで目をふいて、ほほえんだ。
「行ってきます。こちらは、お願いします」
 三人は、黙ってうなずいた。
 部屋を出たところにゴーティエたちがいた。
「・・・どうでした?」クラリスが訊ねた。
 ゴーティエは首を振った。「身元が確認できるまでは・・・あるいは、患者の意識が戻るまでは、面会はできない、と断わられてしまった」
 クラリスは顔を上げた。「わたしが、かけあってみるわ」
 ちょうど病室から白衣を着た男性が出てきた。クラリスは、彼を呼び止めた。
「・・・かの女の意識は戻りましたか、ドクトゥール?」
 男性は、立ち止まった。
「かの女は、自殺を図ったんじゃありませんか?」クラリスは再度訊ねてみた。
「・・・身内の方・・・じゃなさそうですね。記者、ですか?」
 クラリスはほほえんだ。
「かの女は、有名人なんですか?」白衣の男性は、にやりとして訊ねた。
 クラリスは彼の目をじっと見つめた。彼は思わず目をそらした。
「・・・わかりました、あなたにはかないません」男性が言った。「状況から言えば、あのお嬢さんは自殺を図ったに違いありません。かの女は、身元がわかるようなものは、何一つ身につけていませんでしたから」
「何一つ? バッグも何も持っていなかったの?」クラリスが訊ねた。
「ええ、何も」彼は答えた。
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