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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第5章

第88回

「まあ、盗まれたのかしら・・・?」クラリスは心配そうにつぶやいた。
「・・・お金も何もなくなって、絶望のあまり、少女は馬車に身を投げた・・・と記事にするんですね?」白衣の青年が言った。
「まあ、想像だけでものを言ってはいけないわ」クラリスが言った。
 彼は驚いたようにクラリスを見た。やがて、その表情に笑いが混じった。
「・・・わたしの先生も、わたしによくそう言うんですよ」彼は言った。「あなたは、いいひとなんですね」
 クラリスはちょっと怒ったようなふりをした。「それが想像なんじゃないの? わたしは、別に、いいひとなんかじゃないわ・・・」
 彼はほほえみを浮かべた。
「ところで、かの女に会わせてくださらない? もしかすると、かの女は、わたしの探しているひとかもしれないの」クラリスは、とっておきのほほえみを浮かべた。「そして、彼らは、かの女の兄姉なの。わたしは、かの女の無二の親友・・・。わたしたち、記者なんかじゃないのよ」
 彼は、顔をくもらせた。「・・・あなたたちが探しているひとじゃなければいい、と思います。あなたたちのために・・・。ここに運ばれてきたときの様子は・・・それはもう、ひどいものでした・・・。なんせ、4頭の馬に踏まれて、馬車に轢かれたのですから・・・。死ななかったのが不思議なくらいでした・・・」
 彼は、そう言うと、病室のドアを開けた。
「・・・入ってもいいんですか?」クラリスが訊ねた。
「あなたたちは、かの女の身内の方に違いありません・・・もしそうでなければ、わたしが責任を取ります」彼が答えた。
 クラリスたちがそこで見たものは、包帯で全身巻かれたミイラ状の物体であった。とても生きている人間とは思えない姿であった。
 クラリスは、思わず振り返った。さっきの青年は、彼らを見つめて泣いていた。そして、ベッドの下に置かれていた箱から血まみれの布を出した。
「・・・これに、見覚えがありますか?」
 ゴーティエは、それをみてはっとした。ジュヌヴィエーヴは、思わず泣き出した。かつて洋服であったその布に、クラリスも見覚えがあった。かの女も思わず口に手を当てた。
「・・・そうですか・・・残念です・・・」青年が言った。そして、彼はその場から去っていった。
 クラリスも、目の前のミイラ状の患者がアレクサンドリーヌであると確信した。
「・・・わたし、フィルのところに行きます」クラリスが言った。
 ゴーティエは首を横に振った。「・・・フィルに言って、どうなるっていうの?」
「少なくても、彼は、心配しています」クラリスが答えた。
「こうなったのは、半分は彼のせいだ」ゴーティエが冷たく言った。「ここへ来て欲しくない。もし、彼を見たら・・・わたしは、冷静ではいられないだろう・・・」
 クラリスはすまなそうな表情で答えた。「・・・彼に会うかどうかは、リネットに任せましょう」
 ゴーティエはうなずいた。そして、彼は泣いているのを隠そうとするかのように、クラリスから目を背けたのである。
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