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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第52章

第922回

 ドクトゥールはもう一度目を閉じた。彼は、この話を詳しく聞くべきかどうか迷っていた。そして、ロシュフォールが話すまま耳を傾けることにした。
「その人物の名前を聞くと、ドクトゥール=シャルニーは、前よりも動揺した顔になりました。そして、その患者を直接診察しようと言いました。ぼくは、その件はそれ以上詳しくはわかりません。ですが、薬品抜き取りはその後も行われ、ぼくはそれに加担し続けました」
「どうして?」ドクトゥールは小さな声で訊ねた。
「直接の理由は、ドクトゥール=シャルニーに頼まれたからですが」ロシュフォールは肩をすくめた。「途中でやめるわけにはいきませんでした。ぼくは共犯者ですから・・・」
 ドクトゥールは目を開き、続きを促した。
「ぼくは共犯者ですから、この件から手を引けば、犯罪の事実は明るみに出て、ぼくも処罰の対象となります。ぼくは・・・つまり、ここを出て行きたくなかったのです」
 ロシュフォールはうなだれた。
「・・・出て行けとおっしゃいますか、ドクトゥール?」
「きみが、そうすべきだと思うのなら」ドクトゥールが言った。「きみは、自分の犯罪に対し、何か償いをしなければならないのだ。償いとして、きみは何をしようとしているのかね?」
「ここを出る以外のことなら、何でもします」ロシュフォールが答えた。
「それでは、しばらく自室で謹慎しなさい」ドクトゥールが言った。「わたしは、きみに全部を話してもらいたい。しかし、今のわたしには、それを聞くだけの体力と精神力がない」
 そう言うと、彼はベッドに横になることを決めた。ロシュフォールは、彼が横になりやすいように手助けした。
「・・・部屋にいる間、誰にも会ってはいけない。特に、今回の事件の関係者とは」ドクトゥールが言った。「そして、部屋から一歩も出ないこと。挨拶の言葉以外は口にしないこと」
「わかりました」
 ロシュフォールはドアを開けた。
「・・・そろそろ、入ってもいいでしょうか、ドクトゥール?」ダルベールは、ドアの隙間から顔を出し、好奇心をあらわにした表情で訊ねた。
「その前に、ジルベールを部屋まで連行してくれ。そして、戻るとき、リオネル=デルカッセをつれてきて欲しい」ドクトゥールが答えた。
「連行?」ダルベールは、ドクトゥールの使った言葉を驚いて繰り返した。
「そのとき、やはりスープは持ってこなくていい、と伝えて欲しい」ドクトゥールは、疲れ切ったように言った。
「・・・やっぱり、まだ、食べられそうもないんですね?」ダルベールは心配そうにそう言い、ロシュフォールに目を移した。もう一度ドクトゥールの方を見ると、彼は目を閉じて横たわっていた。
「・・・きみは、何か犯罪に加担したのかい?」ダルベールはロシュフォールに訊ねた。「今回の事故に関係あること?」
 ロシュフォールは無言のままだった。
「きみも、ドクトゥールに沈黙を命じられたんだね」ダルベールはそう言うと、ロシュフォールを従えて部屋から出て行った。
 やがて、ダルベールとリオネルが部屋に戻ってきたとき、ドクトゥールは額にしわを寄せたまま眠っていた。
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