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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第5章

第90回

 クラリスは、思わずアレクサンドリーヌを抱きしめた。
「生きていてくれてありがとう、リネット」クラリスは涙を流しながら言った。「みんな、どんなに心配したことか・・・」
 アレクサンドリーヌは、黙ったまま涙を流していた。
「あなたは、生きなくてはならない」クラリスが言った。「生き残ったあなたには、生きる義務があるわ」
 アレクサンドリーヌは力無く首を横に振った。「・・・生き残った、って・・・?」
「あなたを助けようとして馬車の前に飛び出した男性は、今、死にかけているわ」クラリスが正直に言った。「彼は、恐らく、助からないでしょう・・・」
 クチュリエ青年もうなずいた。
「かわりに死にたかった・・・」アレクサンドリーヌはふるえながら泣き続けた。「神様、どうか、わたしを・・・彼の命は助けてください・・・」
 クラリスは、さらに言った。「その男性は、フィルの父親よ」
 ゴーティエとジュヌヴィエーヴは、クラリスをとがめるように見つめた。
 アレクサンドリーヌはさらに苦しそうにうめいた。
「・・・フィルに会う・・・?」クラリスが訊ねた。
 アレクサンドリーヌは力無くつぶやいた。「ええ、彼に会わせて、クラリス」
 ゴーティエは思わずクラリスをにらみつけた。
 クラリスは、ゴーティエの目を避けるように顔を背け、部屋から出て行った。
「ゴート、わたしは、フィルに会わなくてはならないわ」アレクサンドリーヌが兄に言った。
 ゴーティエはむっとしたような表情で妹に言った。「わたしは、彼に会いたくない」
 アレクサンドリーヌは、ちいさな声で言った。「こうなったのは、わたしのせいで、彼のせいじゃない。そして・・・わたしは、彼の父親まで殺そうとしている・・・」
 そう言うと、また下を向いて泣き出した。顔のまわりの包帯が涙でびしょぬれになっていた。包帯で体を固定されていたので、涙を拭くことさえできなかったのである。
 やがて、クラリスが病室に顔を出した。
「・・・プランス=シャロンが・・・フィルのお父さんが、意識を取り戻して、リネットに会いたがっています」クラリスが言った。そして、クチュリエ青年に言った。「ドクトゥール=クチュリエ、かの女を連れて行っても大丈夫でしょうか?」
 クチュリエは、アレクサンドリーヌを優しく見つめた。「会いますか、お嬢さん?」
 アレクサンドリーヌは小さくうなずいた。
「わかりました。車椅子を準備するので、そのままお待ちください」
 クチュリエは部屋を出て行った。
「・・・どういうこと? 確か、フィルの父親は死にかけている、って・・・?」ゴーティエが訊ねた。
 クラリスの表情が暗くなった。「ええ。彼に付き添っているドクトゥール=クルピンスキーは・・・」クラリスの言葉が一瞬つまった。「・・・『会わせたい人がいたら、急いでください』と・・・。彼は、『できれば、あのときのお嬢さんと話がしたい』と言ったんです・・・」
 ゴーティエは、急に、<フィルの父親>というのがクラリス自身の父親であることを思い出した。彼は、意地を張っているときではない、と思ったのである。彼は、妹の顔から包帯を取り、ハンカチで涙を拭いた。
「・・・ちゃんと、顔を見せるんだよ、リネット。きっと、彼は、きみを見たいと思うんだ・・・」
 そのとき、クチュリエが車椅子を持って戻ってきた。
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