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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第53章

第945回

 ドクトゥールは、イーリスの肩をぽんとたたいた。「あなたは、この町にとって、なくてはならないひとなんです。ラ=メーゾン=ブランシュを頼みます、イーリスさん」
 イーリスはうなずき、サンディ=シャルパンティエのほうに向かって去っていった。
 その後ろ姿を見送っていると、リオネル=デルカッセが声をかけてきた。
「もう、お戻りになりますか、ドクトゥール?」
 ドクトゥールはリオネルの方を見た。「仕事は、もう終わりかね?」
「わたしたちができる仕事は、ほとんど終わりです。あとは、ラ=メーゾン=ブランシュの人たちが何とかしてくれると思いますよ。ところで、イーリスさんを連れ帰るのは、諦めたんですね?」
「かの女は、あの庭を・・・いや、あの屋敷を管理する義務があるんだよ」ドクトゥールが答えた。
「義務、ですか?」リオネルはイーリスの後ろ姿の方に目を移した。
「だから、あの家には、誰か大人の女性を派遣したいと思うのだが、誰がいいと思う?」
「新しく誰かを雇うのではなく・・・?」
「知っている人間の方が、信頼できる」ドクトゥールが言った。
「そうですね」リオネルが言った。「女性ですか。それじゃ、母親代わりになり、家全体の管理ができる人がいいですね。たとえば、フェリシアーヌ=ブーレーズはいかがですか?」
「確かに、かの女が一番信頼が置ける女性なのだが」ドクトゥールは顔をしかめた。「かの女が<きづたの家>を離れるとは思えない」
「そうですね」リオネルはもう一度同意した。「じゃ、いっそのこと、フランはどうでしょう?」
「フラン?」
「フランソワーズ=シュミットです」
「マクシミリアン=シュミットの娘の?」ドクトゥールはびっくりしたように言った。「あの子は、今度高校を卒業する予定じゃないか!」
「かの女の今後の進路を訊ねたことは?」
「大学に進むという話は聞かない」ドクトゥールは考えながら言った。「シュミットくんは、家族の話はしない人でね。もしかすると、結婚するという話になっているのかも知れないね。でも、なぜ、フランなのだ?」
「年齢が近いから、相談相手にもなるんじゃないかと思ったんです」
「なるほど、そういう人選もあるな」ドクトゥールが言った。「帰ったら、彼に話を聞いてみよう。それに、かの女にも」
 話をしているうちに、二人は墓地の入り口に到着していた。そこには、研究所の車が待機していた。二人は、それに乗り込んだ。
「お帰りなさい、ドクトゥール」運転していた若者が言った。「まもなく、ドクトゥール=シャルニーの意識が戻りそうだという噂です」
「またかい、オーラス?」ドクトゥールは少し顔をしかめて見せた。「何度目の噂だ、それは?」
 リオネルはふきだした。この日の朝から、ドクトゥール=シャルニーに付き添っている若い医者が彼の意識が戻りそうだと言い続けていた。
「ぼくが聞いたのは、3回目です」オーラス=フーシェは真面目な顔で答えた。そして、車のエンジンをかけた。
 3人は、研究所に戻るまで何も言わなかった。
 車から降り、ドクトゥールはリオネルを従えるようにして中に入った。
 執事のマクシミリアン=シュミットはドクトゥールから帽子を受け取りながら言った。
「おかえりなさい、ドクトゥール。ドクトゥール=マクドナルドの話では、ドクトゥール=シャルニーの意識がまもなく戻るということです」
 ドクトゥールは吹き出すまいとしながら答えた。「ありがとう、シュミットくん」
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