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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第5章

第93回

 ゴーティエとフィルは、部屋を出た。
 フィルは、ゴーティエに向かって口を開きかけた。
 先に話し出したのは、ゴーティエの方だった。
「わたしは、妹たちの父親代わりだった。かの女たちのことは、よく知っているつもりだ」ゴーティエが言った。「一番はっきりした性格なのは、ヴィーヴだ。明るくて、活発で・・・いつでも人気者だった。きみが・・・いや、きみとアルがヴィーヴに夢中だったのは知っていた。ヴィーヴがアルに夢中だったこともね。しかし・・・アルという人物は、今ひとつ謎が多い人物だ。だからこそ、ヴィーヴが夢中になったんだろうけど・・・。二人が婚約した、と聞いて、ショックだったのは理解できるよ。そして、きみのその様子を見て、リネットは絶望したんだろうね・・・」
 フィルはうなだれた。
「そして、わたしは、ペグがきみに夢中だったことも知っていた」ゴーティエが言った。「だから、わたしとしては、失恋したきみがペグの方を向いてくれるといいと思っていたんだ」
 フィルは再び口を開きかけた。
「ペグは、小さい頃から病弱でね・・・何度も何度も死ぬような目に遭ってきた。あまりにも病弱なので、かの女自身、誰かと結婚するという夢を捨てていたのかもしれない。そんなかの女に紳士的な振る舞いを見せた最初の男性がきみだった。かの女は、休みのたびにシャンベリーに来てくれて、自分の部屋にまで顔を出してくれる男性に夢中になってしまっていた。彼がかの女に見せる表情が、たとえ同情から来るものであっても、かの女はそれに気づかなかったんだ・・・」
 フィルは下を向いた。
「きみは、かの女に優しすぎたんだよ」ゴーティエがそう結んだ。「ペグは、それを愛情と解釈してしまったんだよ」
 フィルは言いかけた言葉を飲み込んだ。
「わたしは、リネットの気持ちにも気づいていた。リネットは、絶望して死を選ぶくらいきみに夢中になっていた。困ったものだよね、こんなふうになってしまうとはね。だから、わたしは、当事者のきみを嫌いになりかけた。きみさえうちに顔を出さなかったら、家族がこれほどばらばらにならなかったかもしれないのに・・・ってね」
「・・・ぼくを憎めば、少しは気持ちが晴れるかもしれない、と?」フィルがつぶやいた。
「でも、わたしが間違っていた。きみを憎んでも、何も変わらない。だいたい、きみは何一つ悪くはないんだ。きみに罪があるとすれば、誰にでも優しかったことだけだ。誰に対しても優しくするのは、罪だろうか?」
 フィルはうなだれた。
「プランス=ド=ルージュヴィルは、優しい人だったね。きみは、父親に似たんだね」ゴーティエが言った。「わたしも、彼にならうとしよう。彼は、許しなさい、と言った。だから、わたしも憎むのをやめる。憎しみからは、何も生まれない」
 フィルは顔を上げた。
「一つだけ確認していいかな?」ゴーティエが訊ねた。「リネットにプロポーズしたのはどうして? 同情心から? それとも、あきらめから?」
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