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ブログ小説制作日記

不定期更新の日記です。

拍手ボタンの取り付け方がわかりました?

備忘記録的なもの

試行錯誤をしてみたのですが、拍手ボタンを取り付けることが出来たようです。

うーん、「FC2拍手」のあの説明では、タグをテンプレートのどこかに貼り付けるようにしか読み取れませんよ~。

普通に記事に貼り付けてよかったんですね。

わかってみれば、なんてことがない話なんですが。

「(考える前に)まず、やってみること」が大切なことはよくわかるんですが、考えすぎて身動きが取れなくなるのは、悪い癖なんですよね。わかっているのですが、つい、はまってしまう罠です。

ちょっと前進できてほっとしました。
次は、外伝の続きを書かなければ。
前回の記事を書いて、ちょっとだけ発想を転換させることができました。どうやら、3人同時に揃いそうです。



10/6追記:個別記事(目次から直接記事に入った場合)では拍手に成功したのですが、「ブログ小説制作日記」ページからでは失敗しました。まだ改良の余地があるようですが、今度ダメだったら、この記事ごと削除します。
今度は、「サイト用の拍手タグ作成」で作ってみました。

10/9追記:拍手タグを直接テンプレートに取り付けたのですが、現時点で表示されていないようです。
タイトルの最後を「。」でなく「?」に変えました。拍手欄1つでこんなに苦労するとは思いませんでした。

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近況報告

備忘記録的なもの

piyoをやめてしまったので、しばらくの間、短い記事が続くかもしれません。


今、他のブログで「流行」?しているみたいな設定話的なものっぽいお話を。


8月にオフ会に参加できなかったので、外伝を一つ書こうと思ったのですが、どうしてもサブキャラの配置が出来ずに10月にもつれ込んでしまいました。
こうなったら、小説を書く前にネタバレをしちゃおうかな、と思いました。

作品は、ほぼ1年前に書いたあの人の物語です。
今回は、一年越しのお約束、「ピルニさんとルジツキー氏とジークフリート君を同時に登場させる」というのが課題です。
(ちなみに、前回は、「一人称で書く」が課題でした。一人称は未だに使いこなせないのですが・・・。)

同時に登場させる場面は書けているのです。ただ、その前後(彼らがなぜ一緒になったか)が出来ない。ピルニさんとルジツキー氏が一緒にいるのは違和感がない?のですが、なぜそこにフリーディが????状態です。

ストーリーを作り上げるより、設定が難しくて。

3人を集めるだけでこんなに苦労するなんてねぇ・・・。
きちんとした小説を書かれる方なら、この設定だけでノート何冊使うんだろう・・・?

わたしは、設定には結構いい加減なところがあります。もうバレバレでしょうが。
文章もいい加減。作法なんて全く知りません。
小説家になるつもりはないのだから、まじめに勉強しようと思わずに今まで来てしまいました。
(さらにいうと、勉強している時間があったら何でもいいから書いちゃおう、と思います。それでお金をもらっているのなら、それなりの仕事はしようと思いますが、あくまでも趣味の範囲ですし。)

小説は、意識しないと三人称になります。
「年代記」の場合は特殊で、俗に言う「神視点」の小説です。わざとやってます。

スイスで活躍した小説家を研究している、ポーランド出身のある学者さん(現時点では、名前しか登場していないので某氏、ということにしますが)が、<ル=ヴァンティエーム=シエクル>という雑誌に投稿していた小説家のことを調べているうちに「シャルロット=ド=ヴェルクルーズ」という人物(ネーミングは第四部、というか、シャルロットが亡くなったときの名前)に行き当たり、その人物について書かれた小説、日記、回想録・・・などをあたって、一つの物語を書き上げた・・・というコンセプトなので、視点がいろいろだったりします。主人公以外で、「誰それはこう思った」みたいな記述がある人については、何か資料を残した人限定にしているはずです(が、ちょっと手が滑っていることも・・・)。
第四部を書く前にネタバレするのも気が引けたのですが、話が進まないので、ちょっと書いちゃえ、と。

一人称小説、というのはほぼ未経験で、練習用にいくつか書こうと思ったのですが、結局、この一年、一つもかけなかった(泣)

結局、最後は力業で押し切っちゃうのかな。
それとも、「ねばってねばってねばって、最後には得意の技にもちこんで・・・(外伝小説中のピルニさんのセリフより)」で行くか。
(cambrouseの得意技、って何だろうな? ところで、ピルニさんの得意技が何か、は外伝をお楽しみに。もちろん、その発言をジークフリート君がどう解釈するかは、もうお約束の話ですけどね。)

今度こそ「近日公開」を目標にがんばります。

以上、近況報告でした。

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予告通り、前のブログを削除しました。

備忘記録的なもの

今朝、ブログを一つ削除しました。(これで、削除したブログは2つになりました。)
当面、このブログを整備していきたいと思います。

とりあえず、最初の課題(コメント欄の整備)を片付け、今は二つ目の課題(拍手ボタンの取り付け)をどうするか、を考えているところです。拍手ボタンって、手動で取り付けできるものなのかしら?

それより、プロフィール欄の整備、というのもありましたっけ。
「今さら聞くに聞けないコト」の一つに、もしかすると、わたしのペンネーム(cambrouse)の読み方、というのが入っている人がいたりして?と思ったもので。その辺を踏まえて、欄外に簡単な自己紹介を入れようかな、とか。
(ちなみに、ペンネームは「カムブルーズ」と読みます。「田舎の女」くらいの意味合いの、あまり深い意味はないペンネームです。)

連休中からひどい風邪をひいていて、今日は頭痛がひどいので、ちょっと短い記事ですが、このあたりで失礼します。
「再出発のご挨拶」にもならない、しょーもない記事でした。



10月1日と言えば、国勢調査の日です。
3日前、やっと調査票が届きました。今からでも、インターネットで登録が出来るそうです。(やらないけど。)
ネット専用の用紙?は、職場の人たちのところには、9月前半に届いたと聞いていました。結局、そんな用紙は届かないまま、本調査の用紙だけが(ネットのパスワードと一緒に)届いた次第でして。田舎ならではのいい加減さ、なんですかね。
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コメント投稿練習用ページ(+引っ越しのごあいさつ)

備忘記録的なもの

引っ越し作業が終わりました。コメント送ってみます。




そもそも、小説ブログと日記ブログを別にしていた理由は、システムの関係でした。
今まで、カテゴリー別に記事の順番を指定することができませんでした。

小説は古い順から、日記は新しい順から表示されないと意味がないのですが(ずっと小説を読み続けている方には、最新のデータが一番前で構わないのですが・・・)、これまで、そんな贅沢なことができませんでしたので、やむなくブログを2つ持っていました。

ですが、ご覧の通り、小説と日記が共存できることになりました。

そうなると、ブログを2つ持つ必要はなくなるわけでして(おまけに、放っておくと雑草?が生えてくるし)。

運がいいのか悪いのか、今回の災害のため、ちょっとした時間ができまして、引っ越し作業を一気に済ませることができました。
(災害に遭われた方には、大変お気の毒だとは思うのですが・・・。)

まだまだ細かいところは不完全ですが、見切り発車します。今後ともよろしくお願いします。
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そろそろ、前を向かないと、ね。

備忘記録的なもの

先日、友人の死の知らせを聞いて以来、何もする気が起こらずに(piyoさえ更新ストップして)おりました。

もうそろそろ、吹っ切らないと、と思います。

小説中の台詞で言うと、「わたしは生き延びた。たぶん、生き残った理由があるはずだ」(第1482回より)という感じですかね。

いや、彼の先生が言った「あなたたちが本当に彼の親友でありつづけようとするのなら、あなたたちには、あなたたちにしかできないことがあります。彼の分も生きなさい。彼が見ることができなかった未来を、彼と一緒に見なさい。彼が本当にしたかったことを、彼と一緒にしなさい。そうすることで、彼はあなたたちと一緒に生き続けるのです」(第1854回より)かしら。

友人が亡くなる、という経験は、いくつになってもつらいものです。

・・・でも、生き残った自分は、ぼちぼち、何かを書かなくては。
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広告が出ちゃいました。

未分類

すみません。内容がない広告よけ記事を一つ載せておきます。

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まだ結論は出ないのですが・・・

備忘記録的なもの

・・・やはり、このブログを一時休止しようかな、と思いました。
やめるというよりは、本体(小説ブログ)と吸収合併という形になります。


そもそも、ブログを二つ持ったのは、小説は古い順番に並べたい、日記は新しい順番に並べたい・・・ということを一つのブログで実現するのが不可能だったからです。小説テンプレートを使わなければよかったのかもしれませんが、普通のテンプレートで小説を発表するだけの技術を持ち合わせていなかったので、小説は今の形で発表し続けたかったのです。その途中、何度か日記を途中にはさめないものか、考え続けましたが、「今の形でいいや」と思うに至りました。


ところが、今度、カテゴリー別に記事を並べ替えることが出来るようになりました。
小説は中断中で、広告が出る状態になり、今、二つ(正確には三つ)を抱え込むのが大変になってきました。
たぶん、潮時なのかもしれません。


それこそ、合体させる準備をする時間を作るのが大変ですので、いますぐどうこうする予定はありません。
そう遠くない将来、ひとまとめにしようと思っている、という段階でしかありません。そのとき、このブログをやめちゃうかどうかはまだ決めていません(というか、piyoがくっついているので、piyoをやっているうちはブログを放置、ということになると思うのですが)。


もっとはっきりしたことが決まり次第、正式にご挨拶したいと思いますが、せっかく日記から表紙をはずしたのに、またワンクリック以上しないと日記が見られない状態に逆戻りすることになって申し訳ないと思います。
ただ、タイトルにも書いたとおり「まだ結論が出ていない」状態ですので、引っ越ししようと思ってもタイミングを逃して、「まぁ、このままでもいっか」で終わっちゃう可能性もあります。
人騒がせな記事を書いてしまって申し訳ありません。
いきなりお引っ越し、というのも迷惑だろうと思いまして、記事にしてみました。
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ネガティブな社畜

備忘記録的なもの

「ポジティブ社畜」という言葉を今日初めて聞きました。

定義は「会社に飼い馴らされているのにもかかわらず、非常にポジティブで頑張っている自分に酔っている人たち」なんだそうです。
あ、なんだか当たっている。仕事が好きで、つい残業もしてしまう。でも、好きな仕事なのでがんばれる。

・・・定義の続きが「仕事が好きで、がんばって残業もしているが、それを他人にも押しつける」・・・と言われれば、そこは違うかな、と思いますが。
でも、そう言われてみれば、ここのところ「時間がない!」と思っているのは、会社にいる時間が長いからでは?


トラックバックテーマ第1998回「あなたはポジティブ?ネガティブ?」


自分は、基本的にはネガティブな人間だと思います。
どこがネガティブかというと、あんな暗い小説をこつこつと書き続けるなんて、ポジティブな人間に出来ることじゃない(笑)


ですが、きっぱり社畜をやめようと決心しました。
きっかけは健康診断。
「心筋梗塞の疑い?」で再検査を受けることになったのです。

そういえば、うちの母もずっと「狭心症なの」と言い続けて約80歳になりました。それを見ている限り、まぁ心配はいらないだろうとタカをくくっていたのですが、「帰り道に発作を起こされたら困ります」と主治医の先生に言われて、重い腰を上げることにしました。
(発作を起こしていないから、こうやって日記を書いているんですが・・・。)

もし明日死ぬとしたら、「仕事が楽しいの」と言って会社で死ぬより、好きな音楽とか小説のことを考えながら死にたい、と思いました。
だから、仕事を日常生活の中心に置く生活をやめようと思うのです。それなりに給料をもらって食べて行ければ、それでいいのかな。
同じ一生なら、もっと肩の力を抜いてもいいかな。


・・・健康診断の結果一つで、ここまで考えるというのが、そもそもネガティブでしょう?
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雑感。

備忘記録的なもの

主観的にも客観的にも、今はエネルギー充填に徹した方がいいようだ。

そうでないなら、こんなに身の回りにいろいろ起きないはずだ。
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備忘記録(これについて、記事を書くかどうかは、現時点では保留。)

備忘記録的なもの


戦争は、防衛を名目に始まる。
戦争は、兵器産業に富をもたらす。
戦争は、すぐに制御が効かなくなる。

戦争は、始めるよりも終えるほうが難しい。
戦争は、兵士だけでなく、老人や子どもにも災いをもたらす。
戦争は、人々の四肢だけでなく、心の中にも深い傷を負わせる。

精神は、操作の対象物ではない。
生命は、誰かの持ち駒ではない。

海は、基地に押しつぶされてはならない。
空は、戦闘機の爆音に消されてはならない。

血を流すことを貢献と考える普通の国よりは、
知を生み出すことを誇る特殊な国に生きたい。

学問は、戦争の武器ではない。
学問は、商売の道具ではない。
学問は、権力の下僕ではない。

生きる場所と考える自由を守り、創るために、
私たちはまず、思い上がった権力にくさびを打ちこまなくてはならない。
「声明書」 自由と平和のための京大有志の会ホームページより



著しく賛成。これについて、何か記事を書きたいのですが、とりあえず、リンク先を忘れないための備忘記録、ということで。
引用だけでごめんなさい。
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車いす目線2

備忘記録的なもの

トイレの話になりますので、お食事中の方は、閲覧ご遠慮ください。




「車いす目線1」を書きかけて時間切れストップしてしまったので、仕切り直して続きをば。

車いす生活の人間が外出するに当たって、難所は、駐車場だけではありません。

田舎のスーパーやデパートや駅などを利用するときにはあまり感じないのですが(というか、みなさんそれなりにマナーがいいです)、以前東京に行ったときには驚きました。


「東京駅だけで、うちの町の人口に匹敵する人間がいる」といわれるくらいの田舎に住んでいるので、駅で一番驚いたのは、エレベーターで順番待ちをしたこと!
田舎に住んでいると、エレベーターに乗るのに苦労することはありません。車いすの人間だと、階段とエスカレーターを利用するのは無理ですから、エレベーターに乗るほかありません。エレベーターの前で並ぶほどの人口はいませんので、ゆったりとしたものです。混雑しているところと言って思い浮かぶのが某医大のエレベーターですが、場所柄か、車いすの人は優先で乗ることができます。ですから、東京駅で、後ろから押される(はね飛ばされる?)経験をしたときには驚きました。開いたエレベーターから降りてきた人間が、大きなスーツケースを持った健常者だったのにさらにびっくり。ベビーカーを押した女性からは『なにもたもたしているのよ?』と言わんばかりににらまれるし。
車いすで外出する、って、そんなにいけないことなのかな? おまけに、30分前に改札口に来なかったと言って駅員さんに叱られるし。

(それに比べると、東京スカイツリーの対応はすごくよかった。あそこは、職員の教育がとても行き届いているし、邪魔にされているという感じを受けずに楽しめました。観光地は、そうでなくっちゃね。)


最近困っているのが「みんなのトイレ」とかいうトイレスペース。
誰でも使える、ことを売りにしたばかりに、車いすの人が苦しんでいるという本末転倒の状況。どうして車いすの人のためにあの大きなトイレが出来たのか、という原点が忘れさられています。
車いすの人は、もちろん全員ではないけど、歩けないからと言うだけで車いすに乗っているわけではありません。下半身が麻痺している、ということは、つまり排泄機能もダメと言うこと。だから、お出かけの際の荷物は、排泄グッズの他おむつや着替えなど幼児顔負けの荷物が必要となります(もっとも、子育てをしたことがないので、赤ん坊のお出かけグッズには詳しくないんですが・・・)。カテーテルを使って、定期的に尿を出さなければならないし、排便は不規則的だし・・・。そうなると、トイレの存在は重要になります。おまけに、車いすが動くスペースが必要ですから、ある程度の広さも必要です。
「みんなのトイレ」というのも、たとえばベビーカーを押したお母さま方にとって必要なスペースですが、おむつ交換台などいろいろ設備を整えると、逆に車いすの人がトイレを使いにくくなったりします。おむつ交換台があるトイレがある場合は、「みんなのトイレ」というネーミングであっても、車いすの人に順番を譲ってもらえないでしょうか。車いすの人は、「そこ」でしか用を足せないんです。

以前読んだ何かの相談室で、どうしてもトイレが間に合わないので車いすトイレを借りた健常者が、出てきたところで車いすの男性に叱られた、という記事がありましたが、叱られて逆ギレするのはどんなものでしょう。想像力が足りなすぎると思います。

せめて「車いすの人の使用を優先させて」という張り紙一つあれば・・・と思ってしまうのですが、そこまでして「みんなの」トイレにこだわる理由は何でしょう。それとも、駐車場同様、数と種類が充実すればいいのでしょうか?
近頃、人々に余裕がなさ過ぎると思います。
「困ったときはお互い様」というのは、もはや死語なんでしょうかね。



・・・と、思いきり言いたいことを書き殴りました。
反論もおありのことかとは思いますが、「車いす目線1・2」に限り、ブログ主は議論に応じるつもりはありません。民主主義の理念には反しますが、反対意見は承認しないか無条件で削除しますので、よろしくお願いします。いちおう、コメント欄は開けておきます。
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車いす目線

備忘記録的なもの

小説ネタもないので、身の回りのお話でも。


約1年前に、近況ネタで書いたとおり、わたしと家人はいわゆる「年の差婚」で、彼は身障者です。
一年前と違う状況というと、彼が自分で車を運転するようになったこと。


もちろん、新しく車を買ったわけではなく、10年以上乗っている車を、手だけで運転できるように改造したものです。最新の車とは違い、自分で車いすを車に積んだり下ろしたりができない仕様。いろいろ試行錯誤をしましたが、結局助手席のわたしが車いすの乗降係に降格しました。(前は、専属運転手兼ヘルパー?でしたから、降格、でいいんですよね?笑)


さて、以前は運転から車いす運びまで全部一人でやっていたわけですが、車が変わったとたん、いろいろ違う景色が見えてきました。
今日は、身障者用駐車場について、愚痴?あるあるネタ?を書いてみます。


この数年は、身障者と言っても「車いす目線」になってしまいました。
一言で身障者と言ってもいろんな病気・障害があるのですが、車いすの人と白い杖を持った人が他人の目から見て一番わかりやすい。後者の方は、おそらくご自分で運転されることはまれだろうと思いますし(偏見だったらごめんなさい)、できれば入り口付近で道に迷いたくはないでしょうから車いすの人よりは身障者用駐車場の必要性を感じます。あと、身障者ではなくても年配の方などは、スーパーの入り口近くに駐車スペースがあると便利ですよね。

意外と、車いすの人は、<マイ車いす>持参なので、身障者用駐車場(通称「車いす駐車場」---駐車スペースにユニバーサルデザイン(車いすの絵)が描いてあるので、そう呼ばれるようです)が入り口付近になくても、案外困りません。困ると言えば、どっかの市役所みたいに、入り口から近いのに、傾斜している場所に駐車スペースをとられる方がずっと困ります。うっかりすると、車いすが遙か遠くまで滑り落ちてしまいます。
え、そんなことあるの?と聞かれそうですが、そこに限らず結構傾斜しているんですよ、駐車場って。
ご丁寧に、入り口に向かって高くなっています。今まで使った駐車場の9割以上はそうですね。車の誤動作で、入り口に間違って突っ込んでいかないように、なんでしょうかね? 逆に、車いすのロックを忘れて、他の車に車いすが衝突したらどうするんでしょう? これも自己責任?


あるある、といえば、入り口付近の駐車スペースに車を止める年配の方が多い。それもあってか、新しく出来たスーパーなどは、ご丁寧に「年配者用」「車いす用」「妊婦さん用」と入り口付近駐車スペース全部が区分されている。難を言えば、妊婦さん用駐車スペースの前に喫煙スペースを設けているのが謎ですが(?)。
いっそのこと、入り口付近は年配の方の駐車スペースにしちゃえばいいのに。車いすの人だったら、多少入り口から遠くても、十分なスペース(車いすの乗り降りが出来るスペース)があれば、なんとかなります。

わがF県の場合、身障者を乗せた車につける利用証は一種類しかありませんが(他県の場合は、こんなふうに)結構細分化されていたりするんですね。
それでも、入り口付近以外に車を止めると大変なことになります。車いすの乗り降りが出来るよう、わざと助手席側のラインぎりぎりの止め、利用証を車のダッシュボードに乗せておくのですが、結構幅寄せされます。恨まれているんですね。「入り口付近に駐車スペースがあるんだから、こっちに来ないでそこに止めろ」とでもいうのでしょうが、結構、そこには止められないんですよ。じゃなかったら、わざわざ遠くになど・・・。
たぶん、こういう嫌がらせをされる人、多いんじゃないかしら?


さて、つい最近、通勤ルートにあるコンビニが改装されました。
そのコンビニ、結構知る人ぞ知る(身障者しか知らない?)スポットで、駐車スペースが平らで、トイレが広くて、「身障者でも利用できるコンビニ」というのが売りだった。でも、改装して、普通のコンビニになってしまいました。結構不評だったんですね、身障者スポットって。家人でさえ言いますもの。「コンビニ前の一番いいところに大きな駐車スペースがあって、しかも、いつも車が止まっていない。今まで客から相当苦情があったんだろうな」。



うーん。朝から、こんなことを書いている場合じゃなかったかも。最近、よく眠れなくて。
途中ですが、時間ですので、このあたりで。第二弾はあるかないか不明です。
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やっぱり書いておきます(第三部あとがき?)

備忘記録的なもの

ほとんど1ヶ月近く放置していたこの日記ですが、この記事だけは書いておかなければ、と思い、かなり重たくなった腰を上げました。


「年代記」第三部完結です。
え?ここで終わり?・・・という感想はごもっともですが、ここで終わりです。
原作に比べると中途半端なところで切ってしまったのですが、とりあえず、第四部に登場する重要人物は(名前だけの登場を含め)全員登場したはずなので、いったん、ここで区切ってもいいかな、と。


高校生の時に書き始め、大学生の時に書き終えた原作ですが、ふとしたきっかけで書き直して「ブログ小説」にしようと思いついてから、ここまで来るのが長かった。第三部は思ったよりも手こずった。まさか、こんなに苦労するとは思わなかった。いろんな意味で。


ストーリー的には中途半端ですが、「いっそのこと、ここで終わっちゃってもいいかな?」と思うくらいには、言いたいことは書いたような気がします。


第三部の一番大きなテーマは「ゆるし」です。
人間は完璧な生き物ではありません。人生の中で、たくさんの選択肢に囲まれ、つねにどれかを選びながら生きています。人生というものは、必ずしも前に進んでいるときばかりではない。人間だから、誰でもいいこともするし、わざとではないにしても(わざとかもしれないけども)悪いこともしながら生きています。悪いことをしたくはなくても、結果的に間違った道を選んでしまうこともあります。そのつもりがなくても、運が悪ければ犯罪者にだってなる可能性を、誰もが持っていると思います。
でも、どんな人間にも「良心」というものがあるのだ、とわたしは考えています。何らかの理由で、その羅針盤の調子がおかしいこともありますが、修理するなり交換するなりして正しい道に戻るチャンスを、どんな人間に対しても与えるべきだと思うのです。

心から反省して「ごめんなさい」と言った人間に対し、「許さない」と言ってはいけない。

「右のほおを打たれたら左のほおをだす」ほどできた人間にはなれないけど、でも、「右のほおを打たれたら、左のほおを打ち返す」ような人間にはなりたくない。とっさに手が出ない自信はないけど、でもやっちゃいけないと思ってはいます。それをやっちゃったら、何のために法律があるのか、何のために裁判官がいるのかわからない。
「ごめんで済んだら、警察はいらない」というのもわかります。犯罪を犯したら、何らかの形で償うべきです。
でも、償いを終えた人間に対しては、もっと寛大になったらどうでしょう?・・・と思うんですが。

(・・・なんだか、この話を進めるのは、時期的に気が引けます。間が悪いことに?今、「元少年A」(いわゆるサカキバラ君)の問題が世間で騒がれているところですから、こんなことを書くのは、ホントに間が悪いと言えば間が悪いんですが・・・。でも、わたしだったら、今の「元少年A」君がお隣に引っ越してきても、普通に近所づきあいができると思いますよ。というか、普通に近所づきあいをしなければならないんじゃないかな。 彼を立派に更生させるのは、周りの人間の責任でしょう?)


・・・というような話のもって行き方をしてしまったので、この原稿が一時中断してしまいました。まったく間が悪いったらありません。

そんなわけで、この原稿、一度は書くのをやめたのですが、やっぱり「あとがき?」は必要かと思いまして。


****************************


・・・第三部、長かったなぁ。わずか20年の間の話で、第一部(クラリスの人生30年プラスアルファ)より短い時間なのに、ストーリーは約4倍の長さ?
でも次の20年は、第一部並みの長さです。完結編なので、いろいろ詰め込むようになってしまって、さらに読みにくくなるとは思いますが・・・最後のピカルディー終止まで何とかがんばります。


今後の予定ですが、何度も書いているとおり、ストックがたまるまでは次回の更新はストップします。
あとは広げた風呂敷をたたむ過程が第四部、ということになりますので、自分で書くのもナンですが、このあとの話は予定調和の世界になります。それでもよろしければ、今後もおつきあいください。
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第1936回

第105章

 シャルロットは、二人に声をかけた。
「今日は、どうもありがとう。もう少し考えさせてちょうだい。あと、外は寒いから、ここでコートを着て。<グラフィート>には、ユリアンスキーさんに送らせるわ」
 そう言うと、シャルロットは呼び鈴を鳴らし、執事のユリアンスキーを呼び出した。モジェレフスキー夫妻を<グラフィート>まで送ってもらおうと思ったのである。
 モジェレフスキー夫妻が立ち去ったあとで、シャルロットは先ほどの本を開いた。
 扉の部分に、誰かがペンで書き込みをしていた。シャルロットは、ドイツ語で書かれたその文章を読んだ。

《季節というものは、停滞しているように見えるものなのだ。寒い冬が続くと、いつまでも春が来ないのではないか、という気分になるものだ。でも、必ず春はやってくる。降っている雪もいつかは止む。積もっている雪もいつかは溶ける。少しずつ、気づかないうちに春が近づいているのだ。春の来ない冬はない。それが自然の摂理というものだ。》

 確かにその通り。特に新鮮味も何もない言葉だ。だが、今のシャルロットには、これから春が来るという実感が持てなかった。1933年は、まだ最初の一ヶ月目だ。これから、何が起こるのか想像もつかない。
 シャルロットは、本をいったん閉じ、もう一度タイトルと作者名を確認した。
「《自然と哲学》。シュテファン=ゴールドベルク著」シャルロットはそれをよみ、本をひっくり返して最後のページを見た。「シュテファン=ゴールドベルク、本名シュテファン=フォン=シュタウフェンベルク。1896年ライプチッヒ生まれ。フランスで幼少期を過ごし、1914年ライプチッヒ大学入学。哲学博士」
 そこまで読んで、シャルロットははっとした。「シュテファン=フォン=シュタウフェンベルク? まさか、この人、スフィンクス?」
 シュテファン=フォン=シュタウフェンベルク(スフィンクス)は、サント=ヴェロニック校でシャルロットと1年間同級生だった人間だ。当時から、あまり目立つことがない人間だったし、どちらかというと、どこか頼りないところがある印象しかない人間だった。戦争中、コルネリウスに命を助けられたことがあり、自伝でそれを書いたために、大学を追われたという噂を聞いたことがある。ギュンターは、元同級生だった彼と、卒業後もつきあい続けていたらしい。ライプチッヒ大学を追われ、彼は今どうやって生活しているのだろう。不器用な彼のことだから、別の大学で教えているとは思えない。どこかの私学の高校教師の職を見つけられただろうか? それとも、全く違う職業に就いて、哲学の本を書き続けることにしたのだろうか?
 シャルロットは、考えをいったん打ち切った。今は自分のことを考えようと思った。そして、もう一度本を開いた。
 最初のページに白紙が一枚挟んであった。メモ帳の切れ端だ。たぶん、ギュンターが栞代わりに使っていたものだろう。
 それでも、シャルロットはその紙を手に取ってみた。本当に白紙かどうか確認するためだ。たぶん、マウゴジャータも一応は確認するはずだと考えたギュンターが、文字の書かれたメモなど本に挟むはずはない。シャルロットは、その紙に何か仕掛けがあるかと思ったが、火にすかしてみると文字が浮かび上がる・・・ような仕掛けはないものの、やけに強い筆圧を感じた。
 シャルロットは、鉛筆を持ってきて、その紙をそっとこすってみた。

《絶望だけはしないで欲しい。困ったことがあったら、いつでも頼ってくれ。わたしにできることなら何でもする。わたしは、いつまでもあなたの味方だということを忘れないで。ギュンター》

 浮かび上がってきた文字を見ているうちに、シャルロットはいつしか涙ぐんでいた。そうだ、彼は昔からいつでもそうだった・・・。
 しかし、シャルロットはゆっくりとその手紙を本に戻した。今、彼の力は必要ない。今度だけは、自分一人で何とかしようと思う。
 フランスへ帰りたい。ポーランドを出るにあたって、タイムテーブルを作ろう。処分しなければならないもの、片付けておかなければならない事柄、別れを言わなければならない人たちのリスト作成。それから、フランスへ行くにあたって、向こうでの生活をするための準備。子どもたちへの説得。
 やらなければならないことは山積みだが、やるべきことは決まった。そのときシャルロットはそう思っていた。
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第1935回

第105章

 今のタデウシには、それは無理だろう、シャルロットはそう思った。
「そこで、ギュンターが口を開いた。『かりにかの女がフランスへ戻ったとしたら、かの女は間違いなく元のフィアンセと再婚する。再会した二人を見たら、周りの人たちが黙ってはいないはずだし、何よりも二人は愛し合っているからね。一方、かの女がワルシャワにとどまれば、あの男が指をくわえたまま黙って静観し続けるとは思えない。どちらにしてもあまり好ましい未来図でないにしても、究極の選択で、どちらかの男とかの女が<くっつく>とすれば、元のフィアンセの方がマシだ、というのがきみの考えらしいね。要するに、きみはフリーツェックが嫌いなんだ。自分が離れていったとき、彼がかの女に接近するのが許せないんだ』。その言葉を聞いて、タデックの顔が引きつったそうよ。どうやら図星だったみたい」
 シャルロットはタデウシの表情を思い浮かべた。この一日で、タデウシが知っている状況とは状況が一変してしまっている。ルジツキー氏もチャルトルィスキー氏も、これ以上シャルロットの問題には立ち入らないだろう。彼らも、シャルロットの子どもたちも、シャルロットがフリーデリックと再婚するだろうと考えている。考えてみると、自分がフランスへ帰るべきだと思っているのは、現時点では自分とタデウシだけのようだ。
「あなたの見たところ、ギュンターもスタフも、わたしがポーランドにとどまる方がいいと考えているのね?」
 マウゴジャータはちょっと考えてから答えた。
「スタフはそう考えていると思うわ。ギュンターは武装中立、といったところかしらね。この問題には関わりたくないと考えているように見えたわ。・・・それで? あなたはどう考えているの? まだフランスへ戻ろうと考えているの?」
 シャルロットは頷いた。「ええ。状況が許すなら、そうしたいと思っているわ」
「でもね、わたし思うんだけど、もしタデックを立ち直らせたいと本気で考えるなら、あなたはフリーデマン氏と再婚すべきじゃないかしら?」マウゴジャータがそう言ったので、シャルロットは目を丸くした。
 アントーニはあきれた、という表情を浮かべて妻を見た。「相変わらず極端だな」
「どうせなら、タデックに極端に嫌われてしまいなさいな。一パーセントも未練がない状態にしてしまった方が、彼のためなんじゃないかしら。あなたのことをすっぱりと諦めてしまった方が、彼は早く立ち直れるんじゃないかと思うの。だとすれば、あなたがすべきことは、彼が何よりも嫌がること・・・あなたがフリーデマン氏と結婚して幸せになることだわ」
「そんな理由で結婚を考える人なんていないと思うわ」シャルロットはちいさな声で抗議した。「そもそも、その論理はどこかおかしいわ。まず、わたしが幸せになるために必要なのは、フリーデマンさんではないわ。わたしは、フランスに帰りたいの。わたしが愛している男性がいるフランスへ」
「でも、フランスへ戻ったとして、彼があなたを選ぶとは限らないわ。一方、フリーデマンさんはあなたを心から望んでいる。そして、フリーデマンさんを選べば、タデックは未練なく次の恋に進むことができる。もしも、タデックの今後の幸せを心から願っているのなら、フリーデマンさんにしなさい」
 シャルロットは返事をするのを忘れて、ぽかんとマウゴジャータを見た。
「アントーニのいるところで話すことじゃないかもしれないけど、男性から求められて結婚するのは、とても心地のいいことよ。もっとも、彼がわたしのアントーニほどいい人かどうか、ということとは別問題だけど」
 アントーニは苦笑し、シャルロットの口元が緩んだ。
「そうね、確かにアントーニの方がいい人ね」シャルロットはそう答えた。
「それはどうも」アントーニは笑いをこらえるように言った。
 マウゴジャータはバッグの中から本を一冊取り出した。
「この件に対して、自分の考えは述べたわ。あと、ギュンターから、これを預かってきたわ。手紙がはさんでなかったことは確認済みよ。ギュンターも、そんなものは入れていない、と言っているし。彼は態度を明らかにしなかったけど、わたしが見たところ、この本に彼の本音が書かれているんじゃないのかしらね。じっくり読んでみて、彼の考えを読み取ってちょうだい」
 マウゴジャータは、本をシャルロットに押しつけるようにしながら手渡した。
「それじゃ、わたしたち、もう行くわね。結論が出たら、まっさきに教えてちょうだい。そうね、そのうち、<グラフィート>に顔を出して。みんな、あなたの結論に興味があるようだし、マスターが、久しぶりにあなたのヴァイオリンが聴きたいんですって」
 マウゴジャータはそう言うと、コートを手にした。その動作を見て、アントーニも同様に立ち上がった。
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第1934回

第105章

 屋敷でいつもの出迎えを受けた後、シャルロットは来客を告げられた。モジェレフスキー夫妻が来ているのだという。この時間だから、彼らは家には戻らないつもりで出てきているのだろう。シャルロットは、誰にも会いたくない気分だったが、モジェレフスキー夫妻を追い返すわけにはいかない。
 シャルロットにとって意外なことに、客間で待っていたモジェレフスキー夫妻は、コートをいすに置いたままだった。玄関で預けてこなかったということは、彼らは、本当に<ただ立ち寄っただけ>だったようだ。外出の目的は、<グラフィート>に行くことだったに違いない。タデウシのことを誰かから聞きつけて、真偽を確かめるくらいの気持ちでここに来たのだろう。
 簡単なあいさつのあと、マウゴジャータはいきなり本題に入った。
「タデックと別れたんですってね。彼が本気だと聞いたときは本当に驚いたんだけど、冷静に考えてみれば、これでよかったんじゃないかしら」
 マウゴジャータの言葉に、シャルロットはつい苦笑してしまった。あまりにも単刀直入すぎる。だが、考えてみれば、モジェレフスキー夫妻は、タデウシとの結婚には心から賛成していなかったのは間違いない。亡き夫のヴィトールドとも親交があった彼らは、シャルロットがヴィトールドとはあまりにもかけ離れた男性を選ぼうとしていることに、表だって反対はしなかったものの、心から祝福しているわけでもないようだ、とシャルロットも気づいてはいた。たぶん、シャルロットが今一つ煮え切らない態度だったからだろう。
「タデックは、あなたがたにもあいさつをして行ったの?」シャルロットはそう訊ねてみた。
「いいえ。わたしたちの情報源は、階下の新しい友人」
 ギュンター=ブレンデル? シャルロットは一瞬驚いたが、考えてみれば、タデウシとギュンターは、一応義兄弟だ。厳密に言えば、ギュンターの妻の妹はすでに亡くなっているので、本来ならギュンターと妻の妹の夫であるタデウシは、もはや他人のようなものだ。だが、タデウシは自分の今後の身の振り方を、亡くなった妻の姉の夫に話してからポーランドを出て行ったのだ。シャルロットはタデウシにそんな律儀な面があったとは知らなかったが、もしかすると二人はお互いの妻の存在を抜きにしてもそれなりにつきあいがあったのかもしれなかった。
「タデックは、出かける前にギュンターに会っていった、ということなのね?」
「ええ、昨夜、<グラフィート>で話をしたそうよ。タデックとギュンターには、共通の知人が多かったから、このところ<グラフィート>で、彼らはよく会うようになっていたのよ。タデックがあなたと別れる、という決意をギュンターに告げたいきさつは、さっきギュンターとベルントに聞いたばかりよ。わたしたちは、夕べは<グラフィート>には行かなかったものだから」マウゴジャータがそこまで話したとき、お茶の用意が運ばれてきた。
 シャルロットは立ち上がり、手早くモジェレフスキー夫妻にお茶を出した。
「彼らの話をまとめると、タデックは、同じテーブルにいたギュンターとベルントのところに行くなり、いきなり、『自分はワルシャワから出て行く。クリーシャとは別れた。きみにあとのことを頼む』と言ったそうよ。そこで、ギュンターは、『自分たちはもうそんな親しい関係ではない。自分には、かの女に対してそれほど影響力があるわけではない。頼むなら、別の人にすべきではないのか』と言ったの。そしたら、タデックはちょっと悲しそうな顔をしてこう言ったそうよ。『クリーシャは、フランスへ戻るべきなんだ。かの女のフランス時代を知っている知人、と考えたとき、真っ先に思い浮かんだのがきみだった。きみなら、かの女が学生時代を過ごした町に戻る手伝いをするのに適任かと思った』。それを聞いたギュンターは、タデックの言葉を意外だと思ったみたい。『きみたちが別れる決心をしたのは仕方がないことだったかもしれない。きみがワルシャワから去ろうとするのも理解できる。だが、フランスに戻るのがかの女のためだと思うのはなぜか、が理解できない。かの女は、知り合いもたくさんできたポーランドに残った方がいいんじゃないのか? かの女のことを頼むのは、レーベンシュタイン夫妻がふさわしいのではないのか? わたしは、その任務には適任じゃない。そもそも、わたしは必要以上にかの女とは接触しようとしていないのは知っているだろう? わたしは、リアの手前、かの女とは親しくはできないんだ』ギュンターはそう答えたの」
 なるほど、ギュンターらしい答えだ。要するに、彼は、この件には関わりたくないのだ。
「それを聞いていたベルントが、決定的な一言を言ったの。『要するに、きみは利己的なんだ。自分がかの女と結婚しないのだから、かの女にも誰とも結婚して欲しくないんだろう? そんな理由だったら、わたしも彼もきみには協力できない。かの女を誰にも渡したくないんだったら、自分の手から離さなければいいだけだ。それができないのだったら、かの女の人生に干渉するな』」
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現在充電中です。

備忘記録的なもの

いろいろと行き詰まり、充電させていただいております。
piyoはなるべく更新しますので、よかったらのぞきに来てください。
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第1933回

第105章

 ヴィクトールを学校に送り届けたシャルロットは、双子の兄のアレクサンドルと一緒に校長に頭を下げ続け、なんとか息子の今回の不祥事を許してもらうことができた。罰として、二人とも復活祭の休みが終わるまで外出禁止処分が下された。退学にならずにすんでほっとしたものの、これで2ヶ月以上二人に会えないのだと思うと、シャルロットは気落ちして学校の門を出た。
 それにしても、いろいろありすぎた一日だった。駅でタデウシたちを見送ったのがたった数時間前のことだとは思えないくらい、一日にしてはいろいろな出来事が続いた。それでも、シャルロットはユリアンスキーの前では平然と振る舞い続けた。一人になるまでは、決して気を抜くまいと思ったからだ。もっとも、ユリアンスキーにだけはすべてお見通しだとも思った。
「まっすぐ帰宅してもよろしいですか?」ユリアンスキーは車の運転席に座って、顔だけ振り返ってシャルロットに訊ねた。
「そうね、そうしてちょうだい」シャルロットはそう答えた。そして、横に乗り込んできたピルニに声をかけた。
「ピルニさん。ようやく話ができるわね。あなたがここにいるということは、家族とは話し合いは済んだのね?」
「はい」ピルニは短く答えた。
「ルジツキー商会を辞めたいという意志は、まだ変わらない?」
「はい」
「・・・よかった。さっき、ルジツキーさんの屋敷を訪ねて、本人に辞表を渡してきたわ。ルジツキーさんは辞表を受け取って、十分な退職金を払うつもりだとおっしゃったわ。あなたが警察に駆け込まない限り、あなたと家族の無事は保障してくださるそうよ。彼は、約束を守る人間だと、わたしは思います。わたしは、彼を信じます」シャルロットはそう言うと、ピルニの方を向いた。「あなたのことを信じているのと同じ程度に」
 ピルニは、苦笑するような笑い方をした。どうやら、それは彼の癖のようなものだ、とシャルロットは思った。
「それで、あなたのご家族は、あなたの転職に賛成してくださったのね?」
「いいえ」ピルニは首を振った。「わたしは、一人で家を出てきました。妻は、少し考えさせて欲しいと言って、子どもたちを連れて出て行ってしまいました」
「まあ」シャルロットは驚いた。「わたしは、ご家族の賛成を得てから、と言ったはずなのに」
「わたしは、はじめから妻の賛成が得られるとは思っていませんでした。かの女は、わたしが会社を辞めることそのものに反対なのですから」ピルニはまじめな口調で言った。「わたしは、これまで家族のためだと思って一生懸命に生きてきました。ですが、妻はおそらくそれを望んではいなかったんですね。わたしは、かの女がわたしを必要としたときにそばにいなかった。だから、わたしがかの女を必要としたとき、かの女はわたしから離れたいと望んだんでしょう。今は、お互いに離れて、これからのことをゆっくり考えた方がいいのだろうとわたしも思いました。その結果、妻がわたしのもとに来ない、という結論を出すのだったら、それはそれで仕方がない、と思います。これまで、かの女には寂しい思いをさせてきたし、つらい思いもさせてきたでしょう。自業自得かもしれません。ただ、わたしはかの女を愛しているのだとは伝えました。いつか、一緒に暮らしたいとも」
「それならば、近い将来、あなたは奥様のところに戻れると思うわ。さっきの話を聞いたでしょう。わたしは、ワルシャワでの暮らしをやめて、フランスへ行こうと思っているの。ポーランドには、必要最小限のものだけを残して、全部処分しようと思っているの。だから、あなたがわたしと一緒にいられるのも、そう長い時間ではないと思うわ。あなたも、ご家族のところに戻って、みんなで仲良く暮らしなさいな」
 ピルニは言った。「さっき、レーベンシュタインさまのお屋敷では、あなたはそうおっしゃらなかった。あなたは、みなに、自分の意志で決めなさいとおっしゃった。それなのに、わたしには家族の元に戻れ、と? わたしには、フランスへ同行することを許してくださらないんでしょうか?」
「あなたには、あなたが守らなければならない人がいる、そう言っているだけよ」シャルロットはそう言うと、疲れたように目を閉じた。ピルニをどう説得していいかわからない。彼には、大切な家族がいるのだということを、どうしたらわからせることができるのだろう。
 ピルニは、シャルロットが心底疲れていることに気がついた。だから、今は議論しないことを選んだ。彼は、シャルロットから視線をはずし、外の景色が流れていくのを見つめた。まず最初に、運転免許を取らなければ、とピルニは考えた。ユリアンスキーのように信頼されるようになるには、まだまだ時間が必要だろう。
 あたりがようやく暗くなってきた。車は屋敷に近づいていた。
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ふろしきのたたみ方を失敗したようだ。

備忘記録的なもの

第105章(=第三部の終了)は、誰が見てもがっかりする終わり方になりそうです。
料金を取ってないから「金返せ!」とは言われないまでも、「え、これで終わりなの? わたしの時間を返せ!」と言われても仕方がない終わり方だなぁと。うーん、どこで風呂敷のたたみ方を間違えてしまったんだろう?


とはいうものの、作者的には、この作品は失敗作だとは思っていません。観客席から何が飛んできても、それは変わりません。第四部まで読んでから批判は受け付けます、なんてかっこいいことを言うつもりはありませんが、もうこうなれば、自己満足で作品を続けていくしかないと思っています。たとえ読者が一人もいなくなったとしても(というか、現在、限りなくそれに近い状況ですが)スローペースになっても、作品は必ず完結させるつもりです。
読者を選ぶ作品だとは思いますが、それにしてもここまで読者が減るとは・・・。

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しばらく記事を書きたくない気分が続いていました。
より正確に言えば、書きたくないわけではないので、ちょこちょことつぶやいておりました。
こんなとき、実は放って置かれるのが一番つらい。だから、鍵コメさんのメッセージ、とてもうれしかったです。
「そんなところで、なにうじうじしてるのよ! さっさと出てきて、もっと書きなさい!」と背中を押してくれる人の存在って、とてもありがたいです。エネルギー切れしたときは、どこかからエネルギーをもらわないと動けないタイプですので、何も働きかけがないとそのまま固まっております。
面倒な奴ですから、たぶん、「友達にはしたくないタイプ」「やっかいな隣人タイプ」なんでしょうね。


少し試行錯誤してみようと思います。
この1年、はっきりいって自分を見失っていました。自分が書きたいものをなかなか書けなかった。自分が書くもので、誰かが傷つかないよう、気を遣って書いていました。
でも、たとえ読者が減っても、もっとぶっちゃけた本当の気持ちを書いたほうがいいんじゃないのかな、と思うようになりました。人の目が気になるから、コメントが少ないことが気になるんですよね。読者が減らないように、当たり障りがないことしか書かない、とか変な自己規制をしてみたりして。
ブログというものを始めてから11年目になりますが(そのときのブログは、震災後放置状態になっていますが)、好きなことを勝手に書き殴っていた頃の方が楽しかった。せめてこの日記くらいは、人を楽しませるというのとは別の用途で使おうと思います。
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第1932回

第105章

 全員がそろったところで、ユリアンスキーはゆっくりと話し出した。
「奥さまは、この屋敷をポニァトフスキーさま---現在の公爵さまに売却されるおつもりだ」
 彼らははっとしてお互いに顔を見合わせた。彼らの動揺した表情を見て、シャルロットが言った。
「皆には、3つの選択肢を与えます。一つは、ここでこのまま仕事を続けること。その場合は、チャルトルィスキー公爵が新しい雇い主になります。彼と新たに労働契約を結んでください。ただし、ここに住むのはこれまで通りレーベンシュタイン夫妻なので、これまでと同じ待遇で仕事をすることになります。わたしは、これまで、申し訳ないくらい少ないお手当で働いていただいていましたから、もしかすると、公爵の方がわたしより、あなた方にたくさんの給料を差し上げるようになるかもしれません」シャルロットはいったん言葉を切り、続けた。「二つ目と三つ目は、ここを出て行くという選択肢になります。わたしがお願いしてやめていただくのですから、退職金は通常よりもたくさんお支払いします。二つ目の選択肢として、ここをやめたあとも、これまでの闘争を続けるという道があります。わたしには、もうあなたたちの役に立つことはできませんが、影ながら応援します。どちらも嫌だったら、三つ目として他の道に進んでください。わたしのところに来てもかまいませんが、その場合、公爵と争うことを禁じます」
 全員がユリアンスキーに視線を移した。彼が何と返事するか、知りたかったからだ。しかし、彼は黙っていた。
「この問題がこじれたのは、もとはといえば、前公爵が亡くなったあと、彼の甥が自分の腹心の部下たちを連れてここに乗り込んできたからです。この家の使用人たちは、自分たちがクビにならないように戦わなければならなかったんです」シャルロットはアレクサンデルに向かって言った。「あなたは、彼らの仕事を保障しさえすればよかったんです。主人が替わっても、これまでの生活を保障すると、そう言いさえすれば、問題はここまでこじれなかったんです・・・」
 アレクサンデルは苦笑した。
「当時、わたしは、新しく執事になったユゼフ=ユリアンスキーさんにそう説明されました。自分たちは、自分たちのために戦う。だから、それを認めて欲しいと。あれから20年よ。あなたたちは、もう、十分に戦ったんじゃないかしら?」
 それを聞いて、使用人たちはさらに動揺した。
「・・・本当のことを言えば、当時でさえ、いろいろな考え方の人がいた」ユリアンスキーがやっと口を開いた。「自分たちのそれまでの生活を守ろうとして戦っている人、前公爵に忠誠を誓っていてそのほかの主人を持ちたいと思わなかった人---いいかえれば、現公爵に反感を持っている、または前公爵の跡継ぎはシャルロットさまだと信じていた人・・・。ただ、利害関係だけが一致して、みながこの屋敷で戦った。ただ、今となっては、みなの利害さえ一致しなくなった。シャルロットさまは、戦いを終え、わたしたちを解散させようと考えている。だから、今から、わたしたちは、それぞれ自分が好きなように動くことにしよう。わたしは、ベック夫人に呼ばれてここに来た。だが、わたしは、かつての執事とは言え、今ではこの屋敷を去った人間だ。わたしは、もはやあなたたちの助けにはなれない。あなたたちのリーダーはベック夫人だ。あとは、かの女の指示に従って欲しい」
 ベック夫人は、大きく口をあいて絶句した。
「シャルロットさまがここを手放されるというのなら、わたしはその意志に従うまでのこと。これまでは、あなたと利害関係が一致していたけど、これからは違います。ベック夫人、前公爵の遺志に従う人たちを率いて、あなたがあたらしいグループを率いなさい。わたしは、この件から手を引きます」
「待って」声を上げたのはベック夫人だった。
「わたしが前公爵さまから頼まれたのは、屋敷のことではありません。シャルロットさまを守って欲しいと、ただそれだけを頼まれました。わたしはシャルロットさまが右を向けと言えば、自分がどう思っているかとは無関係に右を向きます。かの女が屋敷を手放すとおっしゃるから、屋敷から出て行く、それだけです」
《彼は、シャルロットが死ねと命じたら、今この場で死ぬはずだ》屋敷の使用人全員が、その事実を思い出した。
「・・・シャルロットさま、あなたは、わたしたちがどうすべきだと思いますか?」ベック夫人はシャルロットに訊ねた。
「もしも、嫌でないのなら、あなたたちにはここにいてもらいたいの。そして、レーベンシュタインさんたちを助けて欲しいの。これまで同様に」シャルロットは優しく言った。「もちろん、あなたたちの意に反してそれを勧めるつもりはないわ。さっきも話したとおり、あなたたちは自由なのよ。彼に仕えるのも、別の仕事に就くことも、わたしのところに来ることも、自分の意思で選択してちょうだい。わたしは、今日は、いったん帰らせていただくわ。2,3日後に、改めて話し合いましょう。それでは、ごきげんよう」
 そう言うと、シャルロットは誰の反論も聞かず、ユリアンスキーとピルニを従えて、その場を去って行った。
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第1931回

第105章

 シャルロットは口を開いた。
「こんなことになってしまって、責任を感じているわ。だけど、もうこの屋敷を手放す以外に方法はないの」
 ユリアンスキーとベック夫人の表情が硬くなった。
「だとしたら、本来の持ち主に引き取ってもらうのが、誰にとってもいい結末だと思ったの」
「いいえ、喜ぶのは、この人だけです」ユリアンスキーは、彼にしてはきつい口調で言った。
 シャルロットは言いかけた言葉を飲み込んだ。ユリアンスキーがこんな口調で話すのを聞いたのは初めてだったからだ。
「いや、レーベンシュタインご夫妻にとっても悪い話じゃないぞ。わたしは、彼らに、ここをただで管理して欲しいと頼んだんだから」アレクサンデルが言った。
「そのご厚意に甘えることはできない、と申し上げたはず」ルドヴィークも強い口調で言った。
「わたしは、ここを出て行きたくない」ユーリアがむっとして言い返した。
「・・・とりあえず、夫婦げんかはあとで、ということで」アレクサンデルがそう言い、レーベンシュタイン夫妻ににらまれて黙った。
 そこで、シャルロットが言った。
「とにかく、全員の意見を聞きたいわ。聞くまでもないかもしれないけど」シャルロットはそう言ってユリアンスキーの方を見た。そして、ユリアンスキーが考え込んでいるのを見て、言葉を継いだ。「ユーリが言うとおり、わたしさえいなかったら、すべてがいい方向に向かっていたはずだった。もし、わたしがスタニスワフスカ夫人に拾われていなかったら、みんなの人生は変わっていたはず。もし、わたしがナターリア=スタニスワフスカの娘としてポーランドに来なかったら・・・。そうよ、わたしがいなかったらこうなっていたはず、という方向に物事を修正していけばいいだけなのよ。そうすれば、彼がチャルトルィスキー家の跡継ぎになっても、誰一人文句はなかったはず」
「ふん」ルドヴィークは不満げに鼻を鳴らした。「少なくても、きみにだけは、それを言う権利はない。それは、ユリアンスキーさんの人生をすべて否定することだから」
 ユリアンスキーは首を横に振った。「レーベンシュタインさま、それは違います。わたしは、自分の人生を自分で選び取ったのです。シャルロットさまとは無関係な話です。ですから、シャルロットさまにだけは、わたしのことで悔いて欲しくはありません」
 そう言うと、ユリアンスキーはベック夫人に、屋敷の使用人を全部集めるように依頼した。ベック夫人は一礼してその場を去った。
 レーベンシュタイン夫妻は黙ってにらみ合っていた。一方、アレクサンデルは上機嫌で、壁に掛けてある絵画を眺めていた。
 シャルロットは、ユリアンスキーに小さい声で話しかけていた。他の三人には内緒話をしているように見えるくらいちいさな声で話していた内容は、ルジツキー氏から聞いたチャルトルィスキー家の歴史だった。話を聞き終えると、ユリアンスキーは沈んだような表情になった。
 しばらくして、ベック夫人は屋敷の使用人全員を連れて戻ってきた。全員と言っても、10人に満たない人数ではあったが。
 かつて<チャルトルィスキー城>とあだ名されたくらいの規模であるこの家は、前チャルトルィスキー公爵が生きていた頃には、そのあだ名にふさわしい人数の使用人がいたものだが、使用人の数は年々縮小傾向にあった。主に財政面からの理由だった。シャルロットは、従業員が70歳になった順から年金を与えて解雇していたからだ。使用人は減ることはあっても増えることなく現状に至っている。黙っていてもあと十年ちょっとで、使用人は誰もいなくなるはずだった。彼らは、普段レーベンシュタイン夫妻の指示で動いているように見えるが、実際にレーベンシュタイン夫妻の意向をくんで動くのはベック夫人だけで、他の使用人はベック夫人の采配で動いている。そして、その全員の主はシャルロットだった。使用人全員が、自分たちはシャルロットに雇われていると思っているし、実際に給料を払っているのはシャルロットだった。
 実際に住んでいるレーベンシュタイン夫妻は、家政婦長と料理人と清掃担当者以外の人間とは普段関わっていないので、それ以外の人間が何人いなくなってもさほど影響はなかった。彼らは、『働いている人間の数が少しずつ少なくなったみたい』くらいの変化しか感じ取っていなかった。ユーリアはほとんど家にいない生活だったし、娘のマリア=テレージアはシャルロットの娘のように、両親よりシャルロットの元で生活しているほうが多い。ルドヴィークは細かいことにはあまりこだわらず、妻の演奏旅行についていかないときは娘同様シャルロットの家にいることも多い。したがって、彼らは現在でも<チャルトルィスキー屋敷>の住人、というよりは管理人に近いポジションだったともいえた。
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第1930回

第105章

 アレクサンデルは、面白そうな様子でユーリアを見ていた。
「彼は、あなたをここから追い出そうとした。あなたから、心から愛していた両親の名前を奪った。それだけでは足りないかのように、彼はあなたの命まで狙った。まさか忘れてはいないわよね? あなたの息子を殺したのはこの人なのよ! ライを殺したのはこの人なのよ!」
「この人がライを殺したという証拠は何もないわ」シャルロットはユーリアに言った。「車の前に飛び出したのは、フェリシーの不注意に過ぎないわ」
「それだけではないでしょう? あなたは、広場で暴漢に襲われたわよね? そして、タデックとマリアーンが事故に巻き込まれた。すべてこの人のせいよ。あなたがワルシャワに来てから、わたしの大切な宝物が次々と奪われていった。それなのに、それではまだ十分じゃないというの? 今度は、わたしたちの家まで必要なの?」
 シャルロットは、傷ついた表情を浮かべた。まさか、ユーリアにそこまで言われるとは思わなかった。
 口をはさんだのは、アレクサンデルだった。
「そこまでおっしゃるなら、家賃はいりません。出て行く必要もありません。これまで通りここに住み、屋敷を管理していただくだけで十分です」
 彼が穏やかな口調で言ったにもかかわらず、ユーリアの怒りはおさまらなかった。かの女はシャルロットをにらみ続けていた。
 シャルロットは一瞬で表情を元に戻した。ユーリアの怒りがアレクサンデルの方に向けられてはまずかった。だから、今は自分が悪者になる必要があった。こうなったら、徹底的に憎まれた方が楽かもしれない。
「ここは、まだあなたの家ではありません」ユーリアはぴしゃりと言い返した。
 ルドヴィークが口を開きかけたとき、勢いよくドアが開いた。
 そこに立っていたのは、エドゥワルド=ユリアンスキーだった。彼の右側にはアンジェイ=ピルニ、左側にはベック夫人が立っていた。
 彼らが口を開く前に、アレクサンデルはおもしろがっているような口調で言った。
「おや、ようやく援軍が来たようだな? 所望したのはお茶だけだったはずなのだが」
「あなたに差し上げるお茶はありませんと申し上げたはず」ベック夫人は毅然とした口調で言った。
 ユリアンスキーは、アレクサンデルに声をかける前に、にらみあっている二人の婦人の方に視線を移した。そして、その場の状況を判断しようと試みたが、一瞬では判断できなかった。それからアレクサンデルに視線を向け、一瞬驚いたような顔をした。彼が笑っていたからだ。
「久しぶりだな、ユリアンスキー君」アレクサンデルは明らかに上機嫌だった。「何を企んでいるかは知らないが、ことを大げさにしないで欲しいものだ。ご覧の通り、わたしは一人だし、丸腰だ」
 その言葉を聞くと、ピルニは反射的に一歩下がった。逆に、ユリアンスキーの方は一歩前進し、不安そうにシャルロットを見た。
「訪問の目的は、話し合いだ。なんでも、コヴァルスカ夫人がここをわたしに売りたいと考えているという噂を聞いて、その真偽を確かめに来た」
「まさか」ユリアンスキーは鼻で笑った。
「かの女が本気なのは、このご夫妻の表情をご覧になれば一目瞭然だろう?」
 シャルロットは、ユリアンスキーの表情が変わるのを黙って見つめていた。今、彼が浮かべている表情を、シャルロットは一度も見たことはない。これは、戦士の表情だ。彼は、アレクサンデルにはずっとこの表情で対抗していたのだ。二十歳前でチャルトルィスキー家の執事になった彼は、屋敷と使用人たちを守ってきたのだ。そんな彼を法律的な立場から守っていたライモンドもいなくなり、今では孤立無援のリーダーとなった。ここ数年、再婚したアレクサンデルからの圧力がなくなっていたが、こんな風に攻撃を再開するとは、ユリアンスキーにとっても意外なことだった。もう一度シャルロットを丸め込むのがチャルトルィスキー公爵の新しい作戦らしい、とユリアンスキーは考えたようだ。
 シャルロットは思った。アレクサンデル抜きで、一度きちんと話し合っておかなければならない。そもそも、この問題は、自分とチャルトルィスキー氏だけで解決する問題ではなかったのだ。この分では、間違いなく話がこじれてしまう。
「・・・それでは、やはり・・・?」ユリアンスキーはがっくりと肩を落とした。
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突然ですが、当分の間お休みします。

備忘記録的なもの

表記の通り、ただいま、精神的にまいっていますので、しばらく新しい記事を書くのをストップしたいと思います。
(小説の方は、予約投稿分のストックが切れたら、少し充電します。piyoは何かしらつぶやいているとは思います。)

少し自分を見失っているような気がしますので、時間をください。

そんなわけで、当分新規記事は出ないと思いますので、しばらくの間この記事をトップにしておきます。

この記事のコメント欄は閉じておきます。他の記事については、いただいたコメントがあるのでコメント欄は閉じませんが、新規コメントは受け付けませんのでご容赦ください。
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第1929回

第105章

 そして、彼は訊ねた。
「一体どんな心境の変化なのか、よかったら教えてもらいたいものだ」
 シャルロットはまじめな顔で言った。
「あなたのお義父さまから、話を伺いました。どうしてあなたが、わたしをずっと憎んでいたのか、その本当の理由を」
 アレクサンデルは器用に右側の眉だけを上げた。
「そして、あなたが、なぜこの屋敷にあれほどまでに執着していたのかを」シャルロットはそう言って黙った。
 アレクサンデルは唇の端をあげ、つぶやいた。「あの古ギツネめ、余計なことを」
 シャルロットは、ついさっき、その古ギツネが彼のことを古ダヌキと呼んだことを思い出し、うっかりふきだしそうになった。
 それでも、表情を引き締めると、さっきルジツキー氏から聞いたこの屋敷の歴史を、レーベンシュタイン夫妻に説明した。
 レーベンシュタイン夫妻は、初めて聞く話に絶句していた。一方、アレクサンデルの方は、話が終わるとにやりと笑った。
「・・・わたしはこの話の当事者だが、第三者から聞いた話を聞くと、別の家の歴史みたいだな」アレクサンデルが言った。「それに、義父がそれほどまでにロマンティストだったとは知らなかった。母は、確かに意に反した結婚をしたかもしれないが、息子のわたしから見て、かの女はそれほど不幸な人生を送ったとは思えない。ああ見えても、あの二人、夫婦仲はさほど悪くなかったと思うぞ。父は、若い妻をめとって幸せそうだったし、母も父に甘やかされてまんざらではなかったようだしな」
 そして、たぶん、癖になっているあごをしごく動作を繰り返した。「妻が若いと、自分も若返るような気がする。あらゆる意味で、年下の妻は悪くはないぞ。少なくても、父の方は幸せだったと確信できる」
 シャルロットはにっこりした。
「つまり、あなたが愛妻家だという噂は、本当だったんですね」
「そんな噂があるのか?」アレクサンデルもにやっとした。「それはよかった。妻を大切にしていないという噂が立ったら、義父が黙っていないからな」
 そして、片目を閉じた。「・・・もちろん、噂は本当だと義父にも言っておいて欲しいものだ」
『心得ています』というように、シャルロットも頷いて見せた。
 アレクサンデルは真顔に戻り、レーベンシュタイン夫妻に話しかけた。
「今お聞きになったとおり、わたしはこの屋敷を取り戻したいと思っている。どうやら、このご婦人もわたしに屋敷を売るつもりはあるようだ。問題は、現在ここに住む人たちの意思だな。わたしが見たところ、あなたがたは、ここを出て行きたくはないらしい。そして、わたしも、あなたがたに出て行って欲しいと頼むつもりはない」アレクサンデルは言った。「わたしとしては、この屋敷が自分のものになれば、現在住んでいる人間が誰であろうと問題はないのだ。それに、わたしには住まいがある。わたしは、生まれたときからずっと同じ屋敷に住んでいて、妻もそこを気に入っている。そこを引き払ってまで、ここに住まなくても困らない」
「だが、もしも、所有者が変わるようなら、わたしはここを出て行かなくてはならないと思う」ルドヴィークが言った。
 ユーリアは表情を硬くした。
「この屋敷は、わたしたちには分不相応のものだ。それでもここに住んでいるのは、この屋敷を管理していたコヴァルスキー氏の意向だった。誰かがここに住まなければならないから、わたしたちがここにいた。だが、コヴァルスキー氏は亡くなった。クリーシャもここを手放してフランスへ戻ろうと考えている。それならば、わたしたちもここを引き払うべきだろう」
「引き払う?」ユーリアは鋭い声を出した。「ここを出て、一体どこに住もうというの? わたしたちは、結婚以来ずっとここに住んでいた。ここで、たくさんの思い出を作ってきた。わたしたちには、何の過失もないのに、なぜ出て行かなければならないの?」
「事情が変わったんだ。わたしたちには、この家にふさわしい家賃を払うことはできないんだよ」ルドヴィークが言った。
 ユーリアは唇をかみしめた。そして、夫にではなくシャルロットに攻撃の矛先を向けた。
「だいたい、あなたは、人がよすぎるのよ」ユーリアはシャルロットに言った。「この屋敷の人たちは、ここがこの人の手に渡らないようにするために苦労してきたのよ。さっきの家政婦長のベック夫人の様子を見たでしょう? あれがきっと、この屋敷の人たちの総意のはずよ。あの仕事熱心なかの女が、未だにお茶を運んでこないのよ? こんなこと、前代未聞だわ!」
 ルドヴィークは妻を止めようとしたが、ユーリアは夫の様子には全く気づかずに言葉を続けた。
「それに、この人は、あなたにだってたくさんの悪事を働いてきた。まさか、忘れたわけじゃないわよね?」
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ハルサイ

備忘記録的なもの

知らなかったのはわたしだけかもしれない、という古い話と、ちょっとした思い出話です。



先日、ネットサーフィンしているときに、偶然に見つけたページです。古いものなので、ご存じの方もいらっしゃるかとは思いますが、とりあえず、リンク先を貼り付けますので、興味がある方(がいるかどうかは不明)はどうぞごらんになってください。
宣伝記事のタイトルはハルサイとか聴いてるヤバイ奴はクラスで俺だけ。です。「ん、まあ、ちょっとした(100年前の)洋楽」を聴いている少年の表情がいいですね。


たぶん、「ハルサイとか聴いてるヤバイ奴はクラスで俺だけ」というシチュエーションの方が普通なのだろうと思います。
ですが、不運なことに、「ハルサイとか聴いたことがないヤバイ奴はクラスでワタシだけ」という青春時代を送ってしまった人間には、ちょっとうらやましい話。


「ハルサイ」というのは、白菜の仲間の野菜類ではありません。欲しい方は、スーパーではなく、CDなどを取り扱っているお店にどうぞ。
正式には「春の祭典」というタイトルで知られる、ストラヴィンスキーの音楽。(ストラヴィンスキー、といっても、もちろんお馬さんの名前ではありませんので、念のため。)
1913年の音楽なので、「100周年」にも乗り遅れちゃったわたしでした。で、この102年間に(もちろん、わたしは102歳ではない)、この曲を聴いたのはたった1回だけ。ブーム時に買ったCDを、ipodに入れるかどうか考えて「試しに聴いてみた」。結局、ipodにおさまっているけど、やっぱりその後、聴いたことがない(苦笑)。
決して自慢できる話じゃないけど、ipodに入っているストラヴィンスキーの曲は、その1曲だけです。「火の鳥」に挑戦してみる勇気は、まだありません。「ペトルーシュカ」なんて、とんでもない。


どっかのホールで演奏会があると、翌日には掲示板(学校の廊下にある本物の掲示板)に「昨日の○×ピアノリサイタルのアンコール曲は、△△作曲『◎●』です」が出るような環境で青春時代を過ごすと、「ハルサイ」とか「カルミナ=ブラーナ」を知っているのが普通で、「ハース版」や「ノヴァーク版」についてうんちくを語る人たちに囲まれていれば、自分が異端者になったような気分にさせられます。こういうとき、「『ヘンレ版』なら知ってる」なんて、間違っても言ってはいけません。

(・・・ふう。そんなわけなので、未だにブルックナーも苦手です。)

話について行けないので、”ピアノに消しゴムをはさんでみました(=プリペイド=ピアノのつもり?)”くらいの芸当をしてもだれも驚かない。ジョン=ケージの「4分33秒」を演奏(?)してみたことはあっても、エリック=サティの「ヴェクサシオン」を演奏してみようという暴挙(?だと思う)には参加しませんでした。

ここまで行くと、「ハルサイ? こうなったら意地でも聴いてやるものか」になってしまう、あまのじゃくな人間です。


あれからン年(=10年未満ではない)たち、自分が本当に好きな音楽というものがわかってきた今だから、「わたしはハルサイなんて大っ嫌い!」とも、たぶんこれからの人生の残りの時間がどのくらいあろうと、生きている間は決して好きにならないだろうとも思います。
(ブルックナーに対しては、どうかな? あれだけ苦手だったマーラーを聴けるようになったのだから、たぶん、そのうち好きになるかもしれません。なんせ、守備範囲のジャンルですし。)


「クラシック音楽」なんていうのに足を突っ込んでしまうと、「ハルサイ」みたいな音楽を聴いて「すごい!」とのめり込んじゃう人たちがいることは理解できます。一過性のものか、それからずっと現代音楽にしか興味がない人間になるのかは、わたしにはよくわかりません。
将来、あのとき「ハルサイ、最高!」と言っていたコたちが、60歳になって同級会を開こう、という話になったとき、「じゃ、どっかホールでも借りて、記念に、みんなでハルサイやろうか?」なんて盛り上がったらどうしよう・・・と思わなくもないのですが、もしそんな機会があったら、「実は、わたし、ハルサイ大嫌いだったの」と告白してみようかな、と考えています。
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第1928回

第105章

 シャルロットは大きくうなずいた。「ええ、そうではありません」
 アレクサンデルは口ひげをひねった。「あの男は、こう提案したんだ。コヴァルスカ夫人はわたしの敵ではない。あなたは、わたしがこれまであなたにしてきたことをすべて許している。わたしさえこれまでのあれこれを忘れ去ることができれば、あなたたちもわたしとは新しい関係を築いていけるはずだ。あなたが彼と結婚して、シャルロット=フォン=ブリュンスウィックを名乗ることになれば、スイス生まれのコヴァルスカ夫人が新しい名前を名乗ったに過ぎず、もはやかつてのチャルトルィスキー家の令嬢はこの世から消え去る。あなたたちは、ドイツ系ポーランド人としてワルシャワで暮らし、時々はどこかのパーティーで同席することになっても、よくて新しい友人、悪くても単なる他人としてつきあうことになるだろう。そうなるためには、わたしにたった一つのことを求めたい。スイス出身のシャルロット=コヴァルスカと再婚することを許してほしい。わたしの出方次第で、わたしたちの将来が決まるのだ、とね」
 シャルロットは考え込むような表情になった。
「そして、彼は言った。彼はあなたを幸せにするために生まれてきたのだ。すべてはわたし次第だ、と。そこで、わたしは、彼に一つだけ条件を出したーーー」
 シャルロットは、思いつく限り最悪の可能性を口にした。
「この家をあなたに返すこと、ですね?」
 レーベンシュタイン夫妻はびっくりしたような顔でシャルロットを、次いで公爵を見た。
「その通り。あなたがここにいたから、てっきりあの男と話し合った結果のことだと思った。わたしと和解するためこの家を手放す話し合いをするために、あなたがたがここにいるものだと思っていた」アレクサンデルはもう一度口ひげに手を当てた。そして、首をかしげた。「あなたは、彼と結婚するつもりはないと言った。ならば、なぜあなたはここにいるのだ?」
 レーベンシュタイン夫妻は、今度はシャルロットに鋭いまなざしを向けた。
「・・・もしかして、この家から引っ越してくれるつもりはないかと思って・・・。もし、あなたたちさえその気になってくれれば、新しいすみかは責任を持って探すつもりだ、と・・・」シャルロットは口ごもりながら言った。
「わたしたちが、ここから、出て行く? どうして、そんな必要が?」ユーリアの口調は鋭かった。
「いや、出て行く必要はありませんよ。この家の名義を、かの女からわたしに変更するだけですむ話です」アレクサンデルはさらりと言った。
「ですが・・・申し上げにくいことですが、わたしは、この人たちから家賃を受け取っていないんです」シャルロットはアレクサンデルに言った。
 アレクサンデルは、あごをしごいていた手を止め、信じられない、という表情でシャルロットを見た。
「まさか、この家を、無償(ただ)で貸している? ありえない! この家を、無償で、だと?」
 アレクサンデルは、視線をレーベンシュタイン夫妻に移した。「まさか、この家の資産価値を知らないわけじゃない、ですよね? この家を賃貸に出したら、月いくらくらいになるか、考えたこともない、とか?」
 そして、アレクサンデルはシャルロットに視線を戻した。
「うむ。あなたが無欲だとは知っていたが、これほどまでだとは。一つ忠告しましょう。破産する前に、財産管理人を変えなさい。こんなことをしていたら、あなたは遠からず一文無しになる。なんだったら、わがポニァトフスキー銀行に資産を預け替えすれば、わたしが責任を持って---」
「チャルトルィスキーさん」シャルロットは彼の言葉を遮った。「あなたは、わたしが一日でも早くすべてを売り払ってポーランドから出て行って欲しいと思っていたんじゃありませんの?」
 彼ははっとしたような表情を浮かべ、ぷっとふきだした。
「全くだ。どうしてあなたが相手だと、調子が狂ってしまうんだろう?」
 3人は、突然笑い出したアレクサンデルをじっと見つめた。
 アレクサンデルはおかしそうに続けた。「不思議なことだ。全く不思議なことだ。ここに来るまでは、たった一つのことしか考えていなかった。それなのに、ほんの十数分で、これまで十数年かけてできなかったことを、あなたはいともあっさりとやってのけた。わたしは、あなたもこの家を手放すことを考えていた、だなんて、想像もしていなかったのに」
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第1927回

第105章

 もちろん、アレクサンデルとナターリアの間には何もなかった。しかし、伯父は遺言状を書くに当たって、彼に罰を与えた。ナターリアとは決して再婚しないことーーー法律的に、それは不可能なことだったはずなのにーーー、そして遺産のほぼすべてをナターリアの連れ子であるシャルロットに相続させることを遺言状に盛り込んだ。シャルロットは、公爵ともナターリアとも全くの他人だったのに。こうして、アレクサンデルとシャルロットは泥沼の争いを始めてしまったのだが、争いは表面上では収まったものの、アレクサンデルは戦いから降りなかった。彼にとっては、シャルロットは伯父の遺産をもらう資格がない人間だったからだ。シャルロットもそれは承知の上だったから、何度も戦いをやめさせようとしたが、前公爵を慕っていた使用人たちが、アレクサンデルの挑発に乗ってしまった。
 アレクサンデルは、シャルロットを見て小さくため息をついた。「実にもったいないことをした」
 シャルロットもそう思った。この人とは、もっと早く和解すべきだった。
 しかし、アレクサンデルが考えていたのは、全く別のことだった。「あのとき、伯父の挑発に乗るんじゃなかった。ナターシャとは決して結婚できるはずはなかったのだから、伯父の使用人たちを怒らせずに時間を稼ぐべきだったのだ。あのどこの馬の骨だかわからん女の子がこんな風に成長するとわかっていたら、花が咲いて実がなるまでゆっくり待てばよかったんだ。もし、わたしがあなたたちと争わず、幼いあなたの最大の味方を装っていれば、そして、一緒にナターシャの死を看取っていたら、もしかすると名実ともに、わたしはチャルトルィスキー家と美しい妻とを手に入れていたかもしれなかったのに・・・」
 その言葉を聞き、ルドヴィークはぎょっとしたようにアレクサンデルを見つめた。
 彼の言う<美しい妻>がナターリアではなく自分を意味するのだと気づいたシャルロットは、一瞬おいてルドヴィークと同じ表情をした。続いてユーリアが同じような顔でアレクサンデルを見た。家政婦長だけは、険しい表情を崩さなかった。
 アレクサンデルは、笑いながら言った。「もちろん、一つの可能性に過ぎない。もし、伯父が生きていたら、あなたはわたしの妻ではなく、息子のアウグストの妻になっていただろうからね。いや、きっとそうなったはずだ。間違っても、フリーデリック=ラージヴィルの妻に、とは思わなかっただろう」
 ユーリアはアレクサンデルをにらみつけながら訊ねた。「どうしてここにフリーデマンさんの名前が出てくるんですか?」
「ついさっき、彼はわたしの屋敷を訪ねてきて、『ブローニャと結婚したいんです』と言ったんでね」
「あなたは、ブローニャの父親でも祖父でもない」ルドヴィークはつぶやくように言った。
「そのとおり。わたしはまさに同じ言葉を彼に言った」アレクサンデルが言った。「そしたら、彼はこう言った。『わたしがかの女と結婚できるかどうかは、あなたにかかっているんです』と」
 ルドヴィークは、全員に身振りで椅子を勧めながら、「聞きましょう」と言った。
 アレクサンデルは、それでも身動きしなかった家政婦長に言った。
「そろそろ、お茶の用意をさせてもいいんでは?」
 家政婦長は表情を崩さなかった。「あなたに差し上げるものは、何一つございません。たとえ、一服のお茶であろうとも」
 シャルロットは驚いたようにベック夫人を見た。しかし、お茶を差し上げて、と言ったら越権行為だろうな、と思ったので黙っていた。
 ややあって、ユーリアが「ベック夫人、お茶の用意をお願い」と言い、家政婦長は渋々部屋を出て行った。
 家政婦長の姿が見えなくなり、アレクサンデルは少しほっとしたような表情を見せた。
「せっかく友好的に話をしようと思っているのに、礼儀知らずなやつだ」アレクサンデルがドアの方を見ながら言った。
「自業自得です」シャルロットが言った。「これまでのいきさつがある以上、かの女があなたに好意的になる理由はありませんから」
「・・・で、あなたは?」
「他のひとなら、『白々しい!』と言うでしょうね。あなたが、わたしにしてきた数々の嫌がらせを思えば」シャルロットの口調は穏やかだった。「でも、わたしはいつかあなたと話し合わなければならないと思っていたの。これまでのことから考えれば、あなたがわたしのことをどう考えるか理解はできる。でも、それはわたしとあなたの問題であることを超えて、ほかの人たちを巻き込んでしまった。わたしがあなたに望んでいるのは謝罪ではなくて和解であることは確かだわ。だけど、わたしが望んでいる和解は、フリーツェックが考えているそれとは違います」
 アレクサンデルは、まるで自宅のいすに座っているようにくつろいで足を組んだ。
「では、あなたは、彼と再婚したいというわけではないのか?」
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第1926回

第105章

 シャルロットは、会社に戻ろうとしていたルジツキー氏の車に同乗させてもらった。行き先は、<チャルトルィスキー屋敷(レーベンシュタイン家)>だった。公爵と話し合いをする前に、レーベンシュタイン夫妻の意向を聞いておかなければならなかったからだ。シャルロットがワルシャワに残るとすれば、公爵はその条件として屋敷の明け渡しを要求するはずだし、フランスへ戻るとすれば屋敷を売ってしまいたかったからだ。どちらにしても、シャルロットの手元に屋敷が残ることは考えられなかったのである。
 幸い、レーベンシュタイン夫妻は在宅中だった。ルドヴィークは昼食のために家に戻っていて、ユーリアは夕方に最初の生徒がくるまで時間が空いていたのである。
 日中にシャルロットがやってくることは珍しいことだったので、シャルロットの顔を見ると二人とも不安そうな顔をした。シャルロットが不安そうな表情をしていたので、二人は余計に心配を深めた。それでも、彼らはいつものように挨拶を交わした。そして、シャルロットが「大切な話があるの」と切り出すのを待った。
 しかし、シャルロットはなかなか話を切り出さない。とうとうルドヴィークが話の口火を切った。
「・・・で、話っていったい何だろう?」
 シャルロットは、しぶしぶ口を開いた。
「わたしは、フランスへ戻る決心をしたの」
『うん、それはすでに知っているよ』ルドヴィークはその言葉を口に出さなかったが、表情で伝えた。
「・・・それで、あなたがたに相談があるのーーー」そう言いかけたとき、玄関で男性の鋭い声がした。
「何だろう?」ルドヴィークは、滅多に声を荒げることがない家政婦長が気色ばんだ声を出したのを聞いて、思わずユーリアに声をかけた。廊下の声は、はっきりと『お帰りください!』と聞こえた。招かれざる客に間違いない。しかし、家政婦長の制止を振り切り、謎の人物は客間に入ってきた。続いて入ってきた家政婦長は、まだその人物を追い出すつもりだった。
 そこに立っていたのは、5~60歳の男性だった。シャルロットは、その人物を一目見て、アレクサンデル=チャルトルィスキーだと確信した。かの女が知っている前公爵にそっくりだったからだ。白髪が交じる黒髪に、意志の強そうな灰色の目。人生のかなりの時間人に指図してきた人間だけが持つ尊大さ。それでも、前公爵は、シャルロットやナターリアに対しては、常に優しいまなざしをしていたものだ。それに対して、アレクサンデルは、若い頃から冷たい視線をシャルロットに向け続けていた。シャルロットを見て、彼の態度が一瞬ほつれたが、彼は一瞬で体勢を立て直した。
「フリーツェックは一緒じゃなかったんだな」開口一番、彼はそう言った。
 シャルロットは落ち着き払った態度で言った。
「こんにちは、チャルトルィスキーさん」眉を少し動かしたアレクサンデルに、シャルロットはこう言った。「お久しぶりです、と申し上げればよかったでしょうか? それとも、公爵様とお呼びしなければならなかったかしら?」
 そして、右手を差し出しながら言った。「どちらにしても、その態度は礼儀にかなっていないと思いますわ」
 アレクサンデルは、それでも何も言わなかった。
「わたしは、シャルロット=ザレスカ、旧姓をド=サン=メランと申します。一時期、ポーランドに住んでいたとき、ブロニスワヴァ=スタニスワフスカを名乗っていたことがございました。あなたとの約束で、それ以外の名前を名乗ることはしません」
 それを聞いて、その場でロトの妻のように固まってしまった家政婦長に、シャルロットは優しく声をかけた。
「ベックさん、どうか冷静になってください。彼は、わざわざ話し合いに来てくださったのよ」そして、アレクサンデルに、礼儀作法を教える母親のような口調で声をかけた。「さあ、あなたも、今度はわたしたちに挨拶をしてくださる気になったかしら?」
 アレクサンデルは、礼儀正しくシャルロットの手を取った。その手が震えているのをシャルロットは感じた。
「こんにちは、マダム」アレクサンデルはしぶしぶ挨拶し、次いでレーベンシュタイン夫妻の方を見た。それで、シャルロットは二人に公爵を紹介した。アレクサンデル=チャルトルィスキーの名前を聞くと、二人ともびっくりしたような顔になった。
 挨拶がすむと、アレクサンデルは懐かしそうに客間を見回した。ここに立ったのは何年ぶりだろう。あの頃、自分は若かった。伯父は、いつでも彼と彼の家族を歓迎してくれた。そして、伯父は結婚した。その相手は、若く美しい女性だった。妻を亡くしてずっと再婚せずに一人でいた彼にとって、その女性は彼の理想だった。彼は自分でも気づかないまま、この屋敷に頻繁に来るようになった。若い公爵夫人に会いたかったからだ、ということに気がついたのは、伯父が自分に冷たい視線を向けるようになったからだ。それまで、伯父はこの屋敷を自分に相続させるつもりでいたのに、彼のちょっとした迷いのため、伯父は彼に背を向けてしまった。
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企画に乗った・・・ことになるのでしょうか? <外伝>できました。

備忘記録的なもの


今年も、ブログの誕生日を月遅れで祝うことになりました。毎年恒例化しているので、自分としては「またか」といったところです。


フィクションを書いているのですから、どんな風呂敷をどんな風に広げても大丈夫かな、と思っていたのですが、ここ一年、インターネットって恐ろしい世界だな(?)と思うようになりました。
だって、まさか、スイス在住の方が読んでくださるなんて(汗)絶対に想像できないことでしたもの。

いきなりですが、白状します。今言っておかないと、言うタイミングを逃しそうなので。

ちいさい頃から、いろんな意味でスイスはあこがれの国でしたが、今に至るまで一度も行ったことがないんです。でも、まあ、1870年代頃のスイスなんて、どーせ誰も知らないだろう、なんてタカをくくってスタートしてみたら、こんな事態に・・・。
いまさらカミングアウトしても、誰も驚かないだろうとは思いますが、スイス人の知り合いは未だかつて一人もおりません。それどころか、本物のスイス人を見たことも一度もありません。にもかかわらず、多数のスイス人が登場する小説を書いている自分って・・・。
世界中の人の目に触れる可能性がある媒体で書いているので、「実際のスイスは、こんなんじゃない!!!!」と、いつお叱りを受けるか、と思いながら、細々と連載を続けているのですが・・・。
小説が完結したら、一度小説の舞台であるローザンヌに行ってみたいと思っていますが、どうなることか(まあ、定年退職後、ということになりますかね?)。スイス観光局のホームページを見る限りでは、とんでもない近代的な都市のようですが、うちの小説はそこまで現代に近づいた時代までは進みませんので・・・。


 さて、今年は、(ブログ&自分の)誕生日&復活祭記念企画?で、外伝を一つ書こうと思いました。
(↑え、今年はお誕生会をしない、って言ったの、誰だっけ?)
 
 できあがったのは、コメディー&タイムトリップものです。ちょうど、八少女 夕さんのブログで、「キャラのオフ会」(上のアイコンで開きます)企画があったので、それに便乗することにしました。
 「2015年4月8日 松江にて」という設定だったのですが、いろいろな日付が登場するうちの小説ですが、「4月8日」にはどんな出来事があったか、とっさに思い浮かびません。
 ところが、翌「4月9日」は、特異日なんです。うちの小説、4月9日には、いろいろな出来事が起こっています。
 その中でも、一番重要なのは「1919年4月9日水曜日」です。
 この日、主人公シャルロットの人生が大きく動く出来事が起こります。


 うちの小説、なんせ長い話なので「年代記」本編をお読みになった方でも、もうかなり前の話なので『いったいどんな話だっけ?』というかたが多いと思いますので、予備知識&復習を。

 主人公シャルロットには、ほんの幼い頃に婚約させられたコルネリウスという婚約者がいて、実は二人は相思相愛の仲。
 当時、コルネリウスはフランスの大学で勉強中、シャルロットは生まれ故郷のスイスで、コルネリウスの兄(というか、またいとこ)のロジェと、シャルロットの保護者でもあるヴィトールドと一緒に暮らしている。ところが、一緒に暮らしていくうちに、シャルロットがコルネリウスと結婚するまで<親代わり>の役目を果たしていくつもりだったヴィトールドは、シャルロットに夢中になってしまう。
 一方、同じ小説家仲間のマウゴジャータは、そんなヴィトールドの気持ちを知りながらも、彼のことをあきらめきれない。そして、マウゴジャータの気持ちが自分にはないと知りながらもどうしてもあきらめきれないアントーニという青年がいる。ヴィトールドはアントーニの気持ちに気づき、できるだけマウゴジャータと顔を合わせないようにしていたのだが、1919年4月9日の夕方、二人はあるカフェでばったり会ってしまう。マウゴジャータはヴィトールドに猛アタックし、ヴィトールドは何があってもシャルロットをあきらめないと答える。そんな彼に、マウゴジャータはシャルロットが心変わりするはずはないと告げ、ショックを受けたヴィトールドは、原稿を置き去りにしてカフェから飛び出していく。
 原稿を届けに行ったはずのヴィトールドが何時になっても戻らないので、シャルロットは気が気ではない。しかし、彼が立ち寄りそうな場所には全く心当たりがない。そうこうしているうちに、時計が十一時をつげ、酔っ払ったヴィトールドが帰宅し、シャルロットにプロポーズした。その場面に居合わせたロジェは、酔っ払ったヴィトールドを家から追い出してしまった。



 このとき、振られた方のマウゴジャータがレマン湖で自殺を図り、それを助けたアントーニと結婚したという後日談(第96章)は書いたのですが、ヴィトールドの行動だけは、一行も記述がないんです。どこかで酔っ払って帰宅したこと以外は。

 そこで、<あの日、あのあと、ヴィトールドに何があったのか?>を、思いつきで書いてみました。
 かなり無茶をして、<あの>空白の時間を埋めてみました。

(なお、この前日---2015年4月8日---には、ルジツキー兄妹が時空を超えて松江観光に来ていたらしいです。彼らも噂だけの登場になります。)

 オフ会には一日遅れなので、参加者の皆さんとはニアミスもないはずなので、「噂だけの登場」ということにさせていただきます。
(あ、「半にゃライダー3」だけは登場した、ことになるのかな?)

「年代記」で、この事件のことを触れた部分のリンクを張っておきます。
1.年代記 第1416回 1919年4月9日の出来事(オリジナル版)はここからスタートです。主人公シャルロット視線です。この日の出来事はこの章の終わり(第1425回)まで続きます。蛇足ですが、外伝の続きのシーン?(帰宅したあとのヴィトールドの話)は第1420回です。
2.年代記 第1763回 同じ出来事をアントーニが回想する場面。
3.年代記 第1769回 同じ出来事をマウゴジャータが回想する場面。
*この3場面を読まなくても、今回の話はわかるようになっているはずですが、お読みになる場合は、ヴィトールド=ザレスキーの印象が大いに変化すると思われます。逆に、本編のヴィトールドをご存じの方は、キャラが変わっていますのでご注意ください。

 
 最後に、ここでごめんなさい、です。
 強引なストーリー展開をしていますので、「ネタがジョークの範囲を超えていて、腹が立つんですけど!!!」というお叱りはごもっともでございます。気を悪くされたら、本当にごめんなさい。できれば、笑って許していただきたいところなのですが・・・。
 あと、元ネタがわからないと笑えない箇所がいくつかありますので、もし、解説がご入り用な際は「蛇足」してみます。


それでは、長い話になってしまいましたが、小説をお読みになる方は、こちらからどうぞ。(別ブログに飛びます。
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第1925回

第105章

 ルジツキー氏は声を出して笑った。
「うーん、それは直接彼に聞いて欲しい。もっとも、あの古ダヌキめが簡単にしっぽを出すとは思えないがね」
 人のことを古ダヌキ扱いできる立場でもあるまい。ご自分が社員たちに古ギツネ呼ばわりされていると知ったら、ルジツキー氏はどんな顔をされるかしら、とシャルロットは思ったが、あえて口には出さなかった。
 食事が進むにつれ、シャルロットは自分がこれまでルジツキー氏に偏見を持っていたのだと思うようになっていた。この人は根っからの商売人だ。一度でもこの人と友好的に話ができた人なら、次もこの人からものを買いたい---彼は、人にそんな風に思わせる人間だ。そうでなければ、自分の会社を一代でこれほどの規模のものにはできなかっただろう。が、その反面、敵に回すと恐ろしい人間かもしれない。彼にはそんな二面性があるのは間違いない。
 かの女は、彼のボディーガードたちの優しい目を思いだした。彼らは、盲目的と言えるくらいルジツキー氏のことを慕っている。彼の盾になって死んでもいいと思うくらいに。常に彼のそばにいるボディーガードたちほど、命を賭けてこの人を守りたいと思うに違いない。
 だが、どうして、ピルニだけはそうではなかったのだろうか? ボディーガード集団たちの中にいて、彼一人違う雰囲気を醸し出していた。あの人たちの中にいてさえ、ピルニの目は、ルジツキー氏に対する信頼を浮かべていなかった。
 出し抜けに、ルジツキー氏は楽しそうな笑い声を上げた。
「ところで、直訴状を持ってきたんだって?」
 シャルロットははっとして胸元に手を当てた。しかし、コートは食事の前に脱いでしまっていた。そして、ピルニの辞表はルジツキー氏の手の中にあった。まるで手品を見ているような顔をしたシャルロットに対し、彼はもう一度笑った。
「アンジェイ=ピルニとは、知り合いだったのかね?」
「まさか。仮にそうだったとしたら、あの人は決してわたしを襲撃したりはしなかったでしょう」
 ルジツキー氏は機嫌良さそうににやっと笑った。
「彼は、図体ばかりでかくて、気が弱い男だ。根が優しいんだろうな。就職試験を受けに来たとき、面白い男だと思って採用したんだがね」ルジツキー氏は何かを思い出すような表情をした。「あんな無欲なヤツも珍しい。うちの会社を受験するような人間は、みなまともな志望動機を語るものだが、彼はそうじゃなかった。彼は、一流の柔術クラブがあるから我が社を受験したのだと言った。もしうちで採用しなかったら、他の会社の柔術クラブに入っていただろう。彼は全国大会に出場したことがあるほどの実力の持ち主だった。会社内で役に立つ部署があるかどうかわからないが、クラブチームに彼は必要な人間だった。他の人間だったら、クラブチームにいるより、わたしのボディーガードになりたがるものだが、彼だけは違った。彼は、柔術そのものを愛していた。忠誠心過剰なわたしの部下たちは、彼を好いてはいなかったし、彼も、わたしのボディーガードをするより、チームに戻りたがっていた。おかしなヤツだった」
「でも、いいえ、だからこそ、あなたは彼が好きだったんでしょう?」
 ルジツキー氏はまたにやりとした。「彼には、そう言ってはダメだぞ。そう言っても喜ばないようなヤツには、そういう言葉をかけないようにしているんだ。いくら口説いてもなびかないヤツを口説くなんて、わたしのプライドが許さないからな。だから、彼の退職を認めよう。もちろん、退職金は規程通り支払うし、彼が我が社でどんな仕事をしていたか、あなたに何をしたかを警察に行って洗いざらいしゃべらない限り、彼の安全は保障する。何だったら、あとで、今の話を文章化したものをあなたのところに送ろう」
 そう言って、ほほえんでいるシャルロットに言った。
「あの男をフランスに連れて行くつもりか? たとえ彼がその気でも、彼の家族はどう思うかな?」
 シャルロットは、そこまで考えていなかったことに気がついた。
「もし、あなたがポーランドに残るという結論を出したときには、もしあなたさえよければ、わたしと妹は、あなたを友人として迎えたいと思っている。もちろん、あいつにもしっかり釘を刺しておくよ」ルジツキー氏は優しく言った。
「あなたは、わたしがフランスなりスイスなりに行ってしまった方がいいとお考えだったはず。そして、わたしも、全く同意見だとお伝えしたはずですが?」シャルロットがやんわりと言った。
 ルジツキー氏はいたずらっぽく笑った。「わたしの情報網をあなどらないで欲しいね。あなたには、どうしてもポーランドに残って欲しいと思っている<特別に親しい友人>がいると思っていたのだが? 彼と一緒にワルシャワに残るのも悪い選択じゃないぞ」
 そして、その言葉に赤面したシャルロットを見て、彼はうれしそうに笑った。
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中間発表「ベスト25」

備忘記録的なもの

近頃、精神的に追い詰められているみたいです。
リアル友人に、「いらいらしているのは、心に余裕がないからだよ」と言われ、しばし反省。

ちょっとの間でもコメント欄を閉じて、じっくりと考え事をしてみようかな、と思ったのですが、心の平穏って一体どこにあるんでしょうね?

というわけで、リハビリをかねて、しばらくの間自分の原点に返ってみようと思います。



ipodの「ベスト25」機能について、前回この記事で書いたのが11月のこと。あれから4ヶ月過ぎ、どのくらい順位が変動しているだろう、と思ったら、思ったより<好きな曲リスト>に近づいた感があり、ちょっと驚いています。

ちなみに、今回ベスト25に入った作品は前回と同じ14曲。ただし、新しくベストテン入りした音楽は、前回全くの圏外(25曲に顔を出していなかった曲)です。

前回は、曲の紹介を兼ねてご案内・・・形式をとりましたが、今回は一挙に発表です。


【第一位】ショパン作曲「前奏曲嬰ハ短調」作品45(前回圏外)
【第二位】・・・(前回第一位)
【第三位】ボエルマン作曲「ゴシック組曲」(前回第三位)
【第四位】ニールセン作曲「交響曲第4番」作品29(前回第四位)
【第五位】ヴィエニャフスキー作曲「ヴァイオリン協奏曲第2番ニ短調」作品22(前回第五位)
【第六位】ヴュータン作曲「ヴァイオリン協奏曲第4番ニ短調」作品31(前回第六位)
【第七位】ショーソン作曲「ピアノ四重奏曲イ長調」作品30(前回第七位)
【第八位】サン=サーンス作曲「交響曲第3番ハ短調<オルガン付>」作品78(前回圏外)
【第九位】アルヴェーン作曲「交響曲第4番ハ短調<海辺の岩礁にて>」作品39(前回圏外)
【第十位】シベリウス作曲「交響曲第1番ホ短調」作品39(前回第八位)

この「ベスト25」がどういうシステムになっているのか、今一つよくわからないのですが、ちょっと意外な順番に並んだような気がします。

今回新しくベストテン入りした音楽ですが、長年の?「年代記(小説ブログ)」ウォッチャーと、ここ1年の日記をお読みになった方なら意外でも何でもない音楽が並びました。

第1位に入った作品は、覚えていらっしゃる方がまだおりますでしょうか?
以前書きかけて、未完成状態で放置したあげく、最終的に取り下げた「外伝(ばらの結婚)」のヒロインが、冒頭で演奏していたピアノ曲です。音楽院の貧しい生徒が、ある貴族のお嬢さま方にピアノを教えるアルバイトを紹介され、屋敷に入ろうとしていたときに中から聞こえた音楽がこれ。屋敷には二人のお嬢さまがいて、一人は作曲の才能があり、自分の曲を弾くのは好きだけど人の曲を演奏するのは嫌い。もう一人は作曲の才能はないが、ピアノが天才的に上手(←こちらが、作品のヒロイン)。彼は、その移り気な姉娘のために雇われた教師だった。ところが、その演奏を聴いた彼は、戸を開けたときにたまたま姉娘がピアノの前にいたため、かの女が演奏していたと勘違いして一目惚れしてしまう。そして、そのとき実際に演奏していた妹娘は、そんな彼の様子を見て・・・。
・・・という始まり方をする小説の、冒頭の音楽です。作品自体は、あと3話書けば完成だったのですが、作品に18禁表現(この場合はラヴ=シーン)を入れるかどうか迷ったあげく放置しちゃった作品。ちょっと思い入れのある音楽です。
(といっていないで、書き上げちゃえばいいんですが、小説の登場人物のほとんど全員が作品中でも故人となってしまった今となっては、ちょっとモチベーションが・・・。)

サン=サーンスとアルヴェーンに関しては、日記で何度か触れているので、「好きな音楽です!」と宣言しても、とりあえず誰も驚かないとは思います。



この一ヶ月、ずいぶんワーグナーを聴いたつもりですが、あのくらいリピートしても、意外にベスト25には入らないものなんですね?
あと思ったのは、短調の曲が多い。ドイツの人とロシアの人とチェコの人がいない。ちなみに、ネドバルは11位です。

追記その2:よくよく数えたら13曲でした。
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価値観の相違?(その2?)

備忘記録的なもの

別に「へそくり」というものをしているわけではないのですが、折り目のないお札が大好きで、見つけると封筒に入れて保管?してしまいます。(まあ、つまり、隠しておくのですが。)


どういうわけか、家人はその封筒のありかが直感でわかるみたいなのです。
「あ~、この前、車のダッシュボードに二千円札が入っていたから、使っておいたからね~」
・・・こら! 勝手に使うんじゃない!


昨日、仕事から帰ったら「自動販売機に一万円札を入れようとしたけど、どうやっても入らないんで、店員に来てもらったら、『このお札、古いから(自販機では)使えないんですよ』と言われたんだ。一万円札、聖徳太子でなくなったのか?」と言われ、「ん???福沢諭吉さんだけど・・・?」と言いかけ、はっとしました。
うそっ?引き出しにしまっていた、ピン札の聖徳太子さまを見つけた????


どうでもいいけど、一万円札が聖徳太子だと思っているのが古すぎですが、「10000円札だというのが重要であって、誰の絵でもかまわん」というのもどうかと思うのですが・・・。ちなみに、千円札は誰の絵だ、と確認してみたら、「知らない。伊藤博文?」と聞かれました。
おいおい、わが福島県の偉人を忘れるな!


(心の叫び: いや、それよりも、聖徳太子を返してくれ~。せめて、福沢さんでもいいからさ~。)
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ありときりぎりす

備忘記録的なもの

ひさしぶりに早い時間に会社から出て、夕食の買い物をして・・・いつも通りの生活に戻ろうとして、「いつもって何だっけ?」と思うのが、毎年のパターン。
今月も、気がつくと17日になっております。そういえば、今月に入って一日しか休んでいなかったなぁ・・・。
我が社は決してブラック企業ではありませんが、確かにこれだけ働けば、じっと手を見なくてもそれなりの給料をもらってもいいような気がしなくもありません。我ながら、ワーカホリックだなと思いますし、家人に言わせると「給料が安いんだから、別な会社に移ればいいのに。つくづく損な性分だな」ということになります。


ですが、わたしという人間は、本質的には働きアリさんタイプの人間ではありません。
よく「好きなことを仕事にする」といいますが、今の仕事は、どっちかというと自分の好きな仕事ではないし、自分に向いている仕事でもありません。ただ、どんな仕事でも自分が好きな部分があり、一年のうちでこの時期が一番好きだと思っているだけのことだったりします。一年の大半は、「つくづくヤな仕事」と思って過ごしております。
なんか毎年この時期になると同じことを書いているような気がするのですが、自分が好きなことで稼ぐのは難しいことであり、好きなことと稼ぐことは別物だと自分に言い聞かせています。
この時期が過ぎると、毎年必ずといっていいほどスランプに陥ることになります。人生、いいことばかりではありません。かくして、四旬節後半は、毎年どーんと落ち込んだ気分で過ごすことになるわけです。


前置き?が長くなりました。
・・・で、何の話を始めようとしているかというと、ipodです。
以前、64GBの容量がほぼいっぱいになったので、新しいのが欲しいなぁ、と思っていることを(piyoに)書いたのですが、その件で喧嘩になったので、ちょっと憂さ晴らし?でもしようかな、と。
確かに、ipodがなくても、生きていくのには困らないとは思います。一日の間に、一度も音楽を聴かないで終わる人だって存在することもわかります。でも、一日の終わり(厳密に言えば、「+通勤時間」)に音楽を聴くくらいで目くじらを立てなくたって、ねぇ?


こんな自分をきりぎりすに例えたら、まじめに生きている?きりぎりすに申し訳ないかもしれませんが、別に(自分も、きりぎりすも)遊んで生きているわけじゃないんですけどねぇ・・・。



オリジナルは、きりぎりすでなく、蝉だそうですが、まぁ、どちらにしても論旨は変わらないかな、と。

ところで、今時は、最後にありがきりぎりすを助けるストーリーなんだそうですね。子どもの頃聞いたのは、「きりぎりすのようにならないように、ちゃんと働きなさい」というものでした。日本人がワーカホリックではなくなってきたのか、助け合いが大切なのかはわかりませんが、やっぱり最後にきりぎりすを助けるのは何か違うかな、と。
(↑だから、何の話だ?)
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第1924回

第105章

 ルジツキー氏は、声を上げて笑い出した。
「失礼。こんなにうれしい言葉を聞いたのは久しぶりだ、と思ってね」ルジツキー氏の目元がふっと優しくなった。「やはり、あなたはすばらしい人間だ。あのサーシャが、あなたを恐れている理由がわかるような気がするよ。あなたのような人間は、敵に回すより味方にした方が何倍も得だということを、彼も気づいてくれればいいのだが」
 そう言うと、彼は立ち上がり、自らワゴンの上にあった皿のふたを取った。そして、肉を切り分け、シャルロット、ウェルナー夫人の順番に肉料理の皿を振る舞い、自分の分を持って席に戻った。
「今日のメイン料理はどうやらライチョウのワイン蒸しのようだ」ルジツキー氏はそう言った。「これは、ヘラの大好物でね」
 ウェルナー夫人はにっこり笑った。「間違いなくおいしいわよ」
「遠慮なくいただきます」シャルロットはそう言ってナイフとフォークを持った。
 シャルロットが肉を一口食べたとき、ルジツキー氏は言った。
「突然だが、前チャルトルィスキー公爵の屋敷を、サーシャに譲るつもりはないか?」
 シャルロットはびっくりして顔を上げた。
「誰にとっても、それがいい解決法だと思ったのだが。もし、あなたにその気があれば、わたしが仲介者になってもいいが」
 シャルロットが返事できずにいると、ルジツキー氏はまじめな顔に戻った。
「はっきりいうと、あなたの生活は破綻寸前だ。この間の例の銀行の破産騒ぎで、あなたの---というより、コヴァルスキー氏から相続した遺産のほとんどが消えてしまった。あれは、わたしにとっても相当の打撃だった。あなたのように、収入のほとんどが株と不動産からのものの場合、もう一度取り付け騒ぎがあれば、屋敷を全部手放すことになりかねない。今だって、機会があればポーランドの動産不動産を一切合切手放してしまって、さっさとフランスなりスイスなりに行ってしまいたいというのが本音のはずだ」
 そう言って、彼はグラスの炭酸水を口にした。
「一方、サーシャの方は、あなたのあの屋敷をほしがっている。というか、あの男にとって、その執念はただ事じゃない」
 ルジツキー氏は、ナイフとフォークをいったん皿に置いた。
「あの屋敷には、彼にとって悲しい歴史があるんだよ。わたしたち兄妹にとってこの屋敷がそうであるようにね」ルジツキー氏が続けた。「1863年の蜂起の後、首謀者のロムアルド=トラウグートを屋敷の中に匿ったことが発覚したり、蜂起に参加した領地からの収入のほとんどを失ったりで、チャルトルィスキー家の財政はどん底だった。当時まだ20代前半であとを継いだばかりだった若き当主アントーニ=チャルトルィスキーは、破産するか屋敷を手放すかの二者択一を迫られた。その状況につけ入ろうとしたのが、アントーニにとっては父親くらいの年齢だったポニァトフスキー伯爵だった。彼の亡くなった妻は銀行家の一人娘で、その遺産である銀行を受け継ぐほど商才があった彼は、当時から<銀行家伯爵>と揶揄されていた。その彼が、アントーニに、屋敷を保障する代わりに妹をよこせと言った。こうして、アントーニの妹のゾフィア姫は、父親ほどの年が離れた男の後妻として、無理矢理結婚させられた。こうして結婚した二人の間に誕生したのがサーシャだった。その一連の出来事をきっかけに政治に興味を持ったアントーニとは対照的に、<銀行家伯爵>を見て育ったサーシャは経済に興味を持つようになった。経済状況がよくなってきて、アントーニは、妹に対する負い目から、サーシャを自分の跡継ぎにしようと思っていた。サーシャも、いずれ自分がチャルトルィスキー公爵になるものだと思っていた。妻をめとらなかったアントーニにとって、サーシャは唯一の後継者だったから。いや、アントーニは、サーシャを跡継ぎにするためだけの理由で結婚しなかったのかもしれない。サーシャのほうは、跡継ぎが欲しいというただそれだけの理由で結婚し、念願の息子を、妻の命と引き替えに得た。それでも、チャルトルィスキー家にはきちんと後継者ができ、彼らの計画はうまくいっているように思えた。たった一つ、歯車が狂う前までは」
「それは・・・彼が、ナターリア=スタニスワフスカに出会ってしまった、から・・・?」
 ウェルナー夫人は笑いをかみ殺すような表情をした。
 ルジツキー氏は、シャルロットをじっくり見つめ、妹と対照的な表情を浮かべた。「・・・サーシャが、今のあなたを見たら、どんな顔をするだろうな、と思ったら、複雑な気分になったよ。サーシャは、彼の父親と同じような人生を歩んできたからな。もっとも、彼の場合は、最初に貴族のご令嬢と結婚し、資産家の娘と再婚したから、彼の父親とは結婚する順番が逆だがね。その娘の父親としては、何よりも娘の幸せの方が第一だ。できれば、あなたをサーシャに会わせたくはないものだ」
「それでは、当時彼がナターリアおばさまを好きだったというのは、本当のことだったのですか?」シャルロットは訊ねた。
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第1923回

第105章

「略式な食事なので、あなたさえよろしければ、アルコールを出すのは控えたいと思うが、いかがかな? それと、今日は寒いので、前菜は温かいものにしている」ルジツキー氏は言った。「どうしても、とおっしゃるのなら、食前酒もワインも準備はしているが?」
「同じ飲み物で結構です」シャルロットが言った。そして、かの女も炭酸水のグラスを手にした。
 炭酸水を口にして、シャルロットは、思わず驚いた表情になってしまった。これは、ただの炭酸水ではない。いや、炭酸水には違いないのだが、口当たりが非常にいい。こんなにおいしい水があるなんて・・・とシャルロットは思った。
 その表情を見て、ウェルナー夫人は笑った。
「おいしいでしょう? 本当に、アルコールが入っていないのよ、これ。おいしさの秘訣は、たぶん、この温室で作られたバラの花びらを浮かべたから、かしらね?」
「とてもおいしいです」シャルロットは正直に言った。
 この水がおいしい理由は、たぶん、それだけではないだろう。彼らは、炭酸水の産地にもこだわっているはずだ。水一つとっても、彼らは洗練されたものを好むらしい。そう考え、かの女は少し暗い気持ちになった。この人たちは、本当にお金持ちなのだ。
 ルジツキー氏は穏やかな口調で言った。
「この間のことは、本当にすまなかった。あのとき、彼がわたしを選ぶとは思わなかったが、まさか、あなたを残してワルシャワから出て行くとは、さすがのわたしも想像していなかった」
 相手が柔らかい口調で話しているので、シャルロットもやんわりと言った。
「それでは、もし、あなたを選ぶ可能性が皆無だとわかっていたら、わたしを応援してくださいましたか?」
 ルジツキー氏は答える代わりに、小鉢に入ったグラタンを指さした。「まず、温かいものを食べてしまいましょう。ただのグラタンだが、熱いうちだとおいしく感じるはずだ」
 シャルロットは黙って頷いた。
 ただのポテトグラタンのように見えたが、スプーンで一口すくって食べたグラタンは、濃厚なクリームとほどよい堅さのジャガイモの味が<溶け合っている>というような絶妙な組み合わせだった。もっと食べたい、と思うような味付け。入れ物が小さいのが残念なくらいだ。ロジェ=ド=ヴェルクルーズがこれを食べたら、一体どんな顔をしただろう。彼だったら、料理人を追いかけ回してレシピを聞き出そうとしたに違いない。いや、厨房に押しかけて、3ヶ月くらい修行させてください、と申し出ただろう。
 シャルロットが感心して食べているのとは反対に、ルジツキー氏の方は目の前の食事にはほとんど無関心だったようだ。温かいものを温かく、冷たいものを冷たく。それ以上のことには興味がないようだった。
 かの女は、出し抜けに、同じようなタイプだったヴィンセント=ストックマンのことを思い出した。そうだ、そういえば、二人は似通った経歴の持ち主だった。どん底も最上のものも知っている人間。そういう人だけが持っている独特の雰囲気を、この人から感じる。彼とは、友人として知り合いたかった---シャルロットはそう思った。だが、自分たちは生涯友とはなり得ないだろう、シャルロットはそれを少しだけ残念に思った。
「わたしが雇った調査員は、あなたがあのサンフルーリィ氏の娘さんだとは気がつかなかったようだ。あとで、調査料を少々返却してもらうように言わなくてはならないな」ルジツキー氏は口を開いた。「あなたが、本当にユーフラジー=ド=サン=メランだったら、の話だが」
「まだ信じてらっしゃらないんですか?」シャルロットはほほえんだ。今度は心からの笑みを浮かべることができた。おいしい食事は、人を和ませるというのはどうやら本当らしい。「もっとも、信じて欲しいとは思いませんし、信じてもらうよう努力をしたいとも思いません。わたしは、自分の過去を秘密にしなければならない人間ですから、<敵方の人間>にわざわざ種明かししてみせる必要はないと思います」
「それでは、わたしは、やっぱり敵なのか?」
 ルジツキー氏の方も、顔の表情をほんの少し緩めていた。他人の前では隙を見せないこの男にしては珍しいことなのだろう、ウェルナー夫人の表情には好奇心が浮かんでいた。二人の表情を見て、シャルロットも少し緊張を解いた。
「いいえ。もしも、あなたがわたしの敵だったとしたら、わたしはあなたと一緒に食事はしないと思います」そう言って、シャルロットはほんの少し唇の端を緩めた。「・・・わたしは、ほんの赤ん坊の時から、命を狙われてきました。たとえ、銀のカトラリーを使っていたとしても、信頼できない人の手から食べ物を受けてはいけない、と教えられてきました。そのわたしの直感が、あなたは信頼できる人間だと告げています」
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第1922回

第105章

「パニ=レヴァンドフスカ」ウェルナー夫人は毅然とした態度で話し相手の女性に声をかけた。「申し訳ないんですが、一緒にお食事を取れなくなったようです。できれば、1時間くらい席を外していただけませんか? わたくし、このお二人と大事なお話がありますの」
 レヴァンドフスカ夫人は、半分好奇心、残り半分は恐怖心を顔に浮かべ、頷いた。かの女はウェルナー夫人がルジツキー氏の愛人だと信じている。この場で、ルジツキー氏の愛人たち二人がどんな喧嘩をするのか興味もあったが、自分がクビにならない方が大事だと思い直したらしく、素直にその場を去った。
 そこへ、ルジツキー家の料理人たちが、3人分の料理を運んできた。料理長らしい男性は、食卓のメンバーが、あらかじめ想像していた3人でないことに気がついたが、賢明にもそのことには指摘しなかった。
 シャルロットは、カートを運んできた二人の男性が手際よく食器を並べるのを見て、内心驚いた。このカトラリーの数からすると、彼らは昼食にしてはかなり正式な食事を行うようだ。
 シャルロットは知らなかったのだが、ルジツキー家では、昼食が一番正式な食事だった。職場で軽い食事をするか、パーティーに招かれるかというのがルジツキー氏の普通の夕食だったので、昼に家族そろって食べる食事を彼はとても大事にしていた。ルジツキー兄妹のほか、孫のブローネクやほかの親族が一緒に食事をすることもまれではなかった。しかし、この日は客の予定はなかったようだ。この日は、ウェルナー夫人が庭で食事をしたいと言ったため、レヴァンドフスカ夫人は温室に昼食の準備をさせるよう、屋敷の執事に報告に行った。それを聞いて、中で待機していたルジツキー氏も庭に出てきたというわけだ。普段だと、レヴァンドフスカ夫人も<友人>として一緒に食事をとるのだが、実のところ、レヴァンドフスカ夫人にとっては、ルジツキー氏と一緒の食事というのは気が重いことだったのだ。かの女はむしろほっとして温室の外に出ていった。
 ルジツキー氏は神経質な様子で食卓の準備が整うのを待っていた。彼がいらいらしていることは、その場の全員に伝わっていた。
「悪いが、わたしたちだけにしてくれないか?」ルジツキー氏がそう言ったとき、使用人たちは明らかにほっとしたような表情を浮かべた。
 料理長が料理の説明を行い、執事と一緒にその場を去ったので、シャルロットたちは完全に3人だけになった。
「食前酒はどうなさいます?」ウェルナー夫人が訊ねた。「わたしたちは、日中はお酒をいただきません。あなたは、正式なお客様だから---」
 ルジツキー氏はぶっきらぼうな口調で遮った。「---あなたを招いたはずはないのだが」
 二人の言葉が重なり、ウェルナー夫人は優しい口調で抗議した。「この方は、わたしの客人です。失礼な態度をとることは、兄のあなたでも承知しませんよ」
 ルジツキー氏は唇の端をゆがめた。「ほう? 面白い客人を招いたようだね」
「ええ。かの女は、わたしの古いお友達のお嬢さんなのよ」ルジツキー氏が何か言いたそうにしたので、かの女は彼が口を開く前に言った。「あなたも何度か会ったことがあるでしょう? 指揮者のエマニュエル=サンフルーリィ氏。このひとは、彼のお嬢さんだったの」
 ルジツキー氏は意表を突かれ、口をはさまなかった。
「マーニュの奥さまは、あのナターシャ=チャルト・・・スタニスワフスカ夫人の従姉だったの。かの女は、ナターシャのお嬢さんのブローニャではなく、マーニュのお嬢さんのユーフラジーさんよ」
 今度は、彼は大きく目を見開いた。「まさか」
「何がまさかなの?」
 ルジツキー氏は食前酒代わりの炭酸水をくっと飲み干してから答えた。
「失礼だとは思ったが、この奥さまのことは、以前、調べさせていただいた。残念ながら、この方は<クラコヴィアクのブローニャ>に間違いない」
 シャルロットは目を丸くした。
「いいえ。この方は、間違いなくマーニュのお嬢さんよ」ウェルナー夫人が言った。「ね、そうよね?」
 二人は、そろってシャルロットの方を見た。
 シャルロットは口を開きかけたが、遮ったのはルジツキー氏だった。
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第1921回

第105章

「あの事件のあと、わたしは本当に深く心が傷つきました。心が病むほどではなかったけど。カロルは、わたしの心身状態は正常ではないと周りの人たちに言ったの。わたしも、そのお芝居に乗ることに決めたの。その方が、いろいろと面倒でないと思ったから。それで、屋敷の人たちは、今でもわたしが正気ではないと思っています」ウェルナー夫人が言った。「わたしは精神的に不安定だ、だから、決して表に出すな、と屋敷中の人たちはカロルに言われています。それで、わたしは、普段は、正気ではないお芝居をしているんです。噂に信憑性を持たせるために。わたしが狂っていないことを知っているのは、親戚の人たちだけです。カロルの命令で、正気ではない彼の従妹のために、これまで何人もの相談相手が雇われてきました。でも、わたしのお芝居があまりにも上手なので、話し相手に雇われたひとたちが長くここにいてくれないんです。今回決まった方も、いつまでここにいてくださるか・・・」
 そう言うと、ウェルナー夫人はふっとため息をついた。「・・・ここまで聞いて、わたしが正気かそうでないかの判断は、あなたにお任せします。わたしのことは、パニ=ウェルノヴァとお呼びになってね。で、あなたのことは? ブローニャと呼んだ方が良さそうね。そうすれば、周りの人はわたしが正気ではないと思うでしょうから」
「はい、奥さま」シャルロットはそう答えたあと、訊ねた。「では、わたしは、あなたにそう呼ばれるたびに、《困ったわ》という表情を浮かべてもよろしいですか?」
「あなたも協力してくださるのね?」ウェルナー夫人はそう言って笑った。「・・・さてっと。そろそろ、普段のわたしに戻らないと、怪しまれてしまいそうね。外に、わたしの新しい話し相手の女性が来ているわ」
 シャルロットは小さく頷いた。
「適当にあわせてね」そう言うと、ウェルナー夫人の顔つきが変わった。どこか、焦点が合わないような目つきでシャルロットから顔をそらし、「しゃべりすぎたわね」とつぶやいた。
 シャルロットは、目の前の女性が正気だと言うことを疑わなかった。だから、かの女はウェルナー夫人のお芝居に合わせようと思った。
「奥さま」ウェルナー夫人の話し相手の女性が声をかけた。年齢はウェルナー夫人くらいだろうか。なめらかなビロードを思わせるような声だ。声の質からすると、何らかの訓練を受けたことを思わせる。元女優か何かだったのだろうか、とシャルロットは思った。
「パニ=レヴァンドフスカ」ウェルナー夫人は女性に声をかけた。「ちょうどいいところに来てくれたわね。この女性は、ブローニャ=スタニスワフスカ。わたしの、というより、カロレックのお友達」
 その言葉を聞いて、レヴァンドフスカ夫人と声をかけられた女性は驚き、シャルロットの方は驚いたふりをした。
「奥さま、わたしは、ブローニャでは---」シャルロットは慌ててそう言いかけた。
「そして、こちらは、最近お友達になったレヴァンドフスカ夫人。お名前は・・・あら、ごめんなさいね。レヴァンドフスカ夫人と呼んでくださいと言われていたので、ちょっと・・・」夫人が口を開きかけたが、ウェルナー夫人は続けた。「そうそう、マリアさん。でも、レヴァンドフスカ(ラヴェンダー)夫人、のほうが、このひとらしいでしょう?」
「ええ、本当にラヴェンダーのようなかたですね」シャルロットはそう言いながら、レヴァンドフスカ夫人に握手するために手を差し出した。「クリスティアーナ=コヴァルスカです。奥さまには、先ほどからそう申し上げているのですが・・・」
 レヴァンドフスカ夫人は、ほっとしたような表情を浮かべ、シャルロットがさしだした手を取った。「マリア=レヴァンドフスカと申します」
 そのとき、かの女たちの上の方から男性の声が降ってきた。
「わたしには、ブロニスワヴァ=スタニスワフスカという友人はいない」
 女性たち全員が驚いて声の主の方を見た。そこには、当主のカロル=ルジツキーが立っていた。彼は、あきらかに仕事の途中で会社を抜け出してきたという服装をしていた。
「ご冗談を」口を開いたのはウェルナー夫人だった。
「それとも、この女性は、本当に・・・?」ルジツキー氏の目は笑っていなかった。
「本当に決まっているでしょう。あなたの恋人なんだから、今さらとぼけないで。このところ、あなたには女性の噂がなかったから、ほっとしていたのに。いつの間に、こんな恋人を、わたしに内緒で・・・。かの女は、あなたに会社では話せない用事でここに来たそうよ。別れ話らしいわ。別れの手紙ではなく、辞表を持ってきたんですって。あなたのお気に入りだけあって、面白い方ね」
 ルジツキー氏は眉を寄せ、考え込むような表情で全員を見た。
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独断と偏見のベスト20(ハーモニー重視編)

備忘記録的なもの

だいぶ前(正確には昨年11月8日に、ipodのトップ25機能について記事を書いたのですが、昨日、お友達のエリアンダーさん(ブログはこちら)からコメントをいただきました。

「これは、ネタに使えそうだ」と思いました。

コメントは以下の内容ですが、勝手に転載いたします。

お待たせしました・・って誰も待ってないか(笑)
小曲でメロディーが美しい曲というクラシック掲示板で
私が好きなベスト20を出したことがあります。
私はメロディフェチでメロディのきれいな曲に惹かれます。

~中略~

20位.曲カルリ 「ギター二重奏曲 No.5の22」
19.バッハ「管弦組曲第2」6番『メニュエット』
18.バッハ「インベンション13」
17.クララ「ロマンス・ヴァリエ」
16.ヴィターリ「シャコンヌ」
15.ヘンデル「サラヴァンドと変奏」
14.コレッリ「ラ・フォリア」
13.パラディス「シシリアーノ」
12.パーセル「アブデラザール(ムーア人の反乱)~ロンド」
11.ヴァイスの「シャコンヌ」
10.グラナドス 「アンダルーサ」
9.バリオス「大聖堂」
8.ソル「月光」
7.リスト「ため息」
6.ダウランド 「蛙のガリアルド」
5.作曲者不詳「シシリアーノ」
4.サン=サーンス 歌劇「サムソンとデリラ~あなたの声に心は開く」 
3.ダウランドの「涙のパヴァーヌ」
2.シャミナード「コンチェルティーノ」
1.バッハ 「ゴルトベルク変奏曲 第1変奏」 



うーん、メロディーフェチですか。
そういう観点からすると、わたしはハーモニーフェチかも・・・。

・・・ということで(どういうことかな?)、エリアンダーさんの「メロディー編ベスト20」に対抗して、「ハーモニー編ベスト20」を、独断と偏見と直感で書き出してみることにしました。

「現代音楽は好きではない」とおっしゃるエリアンダーさんですが、上記の通り、お好きな音楽の範囲の広さは相当なものですよね。
ですが、こちらは狭い守備範囲(かれこれ150年程度)の中で、ちょっといいかも?という選曲をしてみました。
メロディーの美しさ、は新旧問わないものですが、和声となると18世紀以前の音楽ではちょっと分が悪いのではないでしょうか・・・と無駄な悪あがきをしてみたりして。


*****************


では、今回はカウントダウン方式です。

20.マスネ 歌劇「タイス」より「瞑想曲」
19.タイケ 「旧友」
18.チレア 歌劇「アドリアーナ=ルクヴルール」より「わたしは創造の神の卑しい僕」
17.フチーク 「剣闘士の入場」
16.コダーイ 組曲「ハーリ=ヤーノシュ」より「間奏曲」
15.エルガー 「愛のあいさつ」
14.グリーグ 「叙情小曲集」より「春によす」
13.デュカス バレエ「ラ=ペリ」より「ファンファーレ」
12.ステンハンマル 序曲「エクセルシオール」
11.ヴィエニャフスキー 「伝説曲」

以下ベストテン。

10.フランク 「3つのコラール」より「第1番」
9.マルティヌー 二つの弦楽オーケストラ・ピアノとティンパニーのための複協奏曲~第2楽章~
8.ラフ 「カヴァティーナ」
7.ヴュータン ヴァイオリン協奏曲第4番~第1楽章~
6.ダンディ 「ヴァレンシュタイン」より「第三部:ヴァレンシュタインの死」
5.ショパン 「幻想ポロネーズ」
4.ネドバル ヴァイオリンソナタロ短調~第1楽章~
3.アルヴェーン 交響曲第4番「海辺の岩礁にて」*1楽章の交響曲ですが、第四部?にあたる部分が特におすすめ
2.ベートーヴェン ピアノソナタ第30番~第3楽章~
1.フォーレ レクィエムより「アニュス・デイ」

もし、明日聞かれたら、順位が変動していると確信できますが。
いや、それどころか、チャイコフスキーがない、ドヴォルザークがない、ブラームスがない、サン=サーンスが・・・と騒ぎそうな予感も。




番外編:その1
「チェルニー50番練習曲」第28番・・・その前の第27番もそうだけど、練習曲にしておくにはもったいない。チェルニーの練習曲だと言わないで、適当なタイトルをつけたら、ピアノピースとして結構いけると思うんですが。

番外編:その2
ヴュータンの第4番のコンチェルトですが、第1楽章自体もきれいな和声なんですが、和声的観点から言うと、第1楽章と第2楽章のつなぎ目がお気に入りです。第1楽章の最後の主和音(たいてい主和音で終わりますよね?)を引き延ばすことによって、その音を導音にみたてて半音上の調にちゃっかりうつって第2楽章を始めてしまうという技法、すごいです。ニ短調と変ホ長調って、本当はあまり近い親戚じゃないんですよ。それでも、二つの楽章、うまくつながっています。
でも、曲の「つなぎ目」をあげるのは反則ですよね?

蛇足(つちのこの足?):
miss.keyさん、またソルヴェイグが抜けてしまってすみません。あの曲は、ハーモニーよりむしろメロディーが優れていると思いますよ、ね、エリアンダーさん?(←・・・って、なぜに、そちらにふる?)
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第1920回

第105章

 シャルロットは、ウェルナー夫人の表情から、父親とこの女性の間には友情関係しかないと察した。そう言われてみれば、以前、彼が送ってくれた絵はがきに、《ワルシャワの友人のところには、立派な温室があって、そこには綺麗な白バラがある。》と書いてきたことを思い出した。その<友人>が<女友達>を意味する女性名詞だったことも。ただ、その当時、シャルロットは彼のことを本当の父親だと知らなかったので、<女友達>について詮索しようとも思わなかった。彼の交友関係に興味もなかった。
 シャルロットは、彼がここを訪問したことがあると聞いて懐かしさを覚えた。彼の故郷からこんなに離れたところに、彼を知る人がいることをうれしく思った。
 突然、シャルロットは《ヘレナ=ウェルノヴァ》という名前に聞き覚えがあることに気がついた。この女性は、フランショーム家の前当主であるエクトール=フランショームの元愛人だ。指揮者であったフランショーム氏は、このワルシャワで亡くなった。死因は心筋梗塞。彼は愛人宅で、ベッドの中で冷たくなっているのを発見されたのだと言うが、口さがない連中は、彼の死因についてあることないことを書き立て、当時スイスにいたシャルロットたちの耳にまでその噂が届いたものだ。
「もしかして、あなたは、芸術家たちの支援者・・・と言われていた、あのウェルナー夫人・・・ですか?」シャルロットは、口ごもりながら訊ねた。
 シャルロットがためらっているのを見て、ウェルナー夫人は笑い出した。
「《芸術家たちの支援者》ね。・・・ええ、それは間違いなくわたしよ」ウェルナー夫人は言った。「そんな風に聞くところを見ると、あなた、たぶん、あの噂のことを思い出したのね、わたしが、フランショーム家の前当主エクトール=フランショームの愛人だという噂を?」
 シャルロットはほんの少し赤くなった。
「男の人って、そういう噂が広まるのが好きなのよね。確か、エクトールの場合は《ヨーロッパ各国の首都ごとに愛人がいる》というんだったわね。今さら誰も本当のことはいわないと思うけど、たぶん、彼はその女性の誰とも関係を持っていなかったと思うわ。ここだけの話だけど、彼が好きだったのは女性ではなく男性だったというのが正解。その噂が広がらないように、彼はマメに女性たちを口説いていたの。主に、わたしのような《未亡人》という女性たちをね。ただ、運悪く、彼がこの家で心筋梗塞の発作を起こして倒れてしまったから、誰にとっても困ったことになってしまったんだけどね。おかげで、わたしはトロイのヘレナと結びつけられて、とんだ悪女として噂になってしまったのよ。でも、よく考えてご覧なさい。ヘクトールは、ヘレナには夢中にならなかったはずだって知らないのかしら?」
 シャルロットは、思わず笑い出した。
「そんなこともあって、カロルは、わたしの名誉を守るため、わたしが心の病を患っていることにしてしまおうとしたの。わたしと彼とは古い友人だった。彼がわたしのところに来ていたのは、お見舞いのためだったのだ、とね。これまで何人か雇われた女性たちが、わたしの迫真の演技にだまされてくれたから、今ではあの噂のことも忘れられてきていると思っていたのに。でも、あなたは、あのコヴァルスキー家の人間だから、わたしの噂を忘れてくれなかったのね」そう言うと、ウェルナー夫人は小さくため息をついた。「そういえば、フランショーム家の現当主も、わたしを訪ねてきたことがあったの。さすがに、息子さんに父親の嗜好を話すことはできなかったけど、彼とは古い友人だということは話したわ。彼の最期の様子もね」
「フランソワが、ワルシャワに来たんですか?」シャルロットは驚いて訊ねた。「いつ頃の話でしょう?」
「10年くらい前のことだと思うわ。ちょうど、奥様をなくされた直後だったと伺ったわ。彼は、衝動的に旅がしたくなったといっていたわ。彼の父親を知っている人たち---さすがの彼も、《父の愛人たち》という表現を避けたわ---特に、父親の終焉の地を見たかったのだと言っていたわ」ウェルナー夫人はそう言うと、片目を閉じて見せた。「そのとき、彼が、ちょっとした騒ぎを起こしたことを付け加えた方がいいかしら? 大きな声では言えないけど、このワルシャワに、彼のご落胤がいるのだとか。ご存じ?」
 シャルロットは目を見開いた。「いいえ」
「噂に過ぎないけど」ウェルナー夫人は肩をすくめた。「その子の名前は、ステファン=フランチシェク=ポトツキ。1924年生まれだから、今8歳ね。同じワルシャワにいるから、名前だけは知っていた方がいいと思うわ。だけど、余計なお世話だったかしらね?」
 シャルロットにとっては、初めて聞く噂だった。フランショーム家当主の隠し子が、これからのかの女の人生にどう関わってくるかなど、今のかの女に知るよしもなかったのだが、かの女はその名前をしっかりと頭に刻みつけた。
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第1919回

第105章

 そう言うと、ウェルナー夫人はにっこり笑った。
「あら、自分だけ話してはダメよね? ところで、あなたは、本当は、どなたなの? 訪ねてきた相手はわたしではないんでしょう? 本当は、カロルのところにいらしたのよね? まさかと思うけど、あなたは彼を口説くつもりじゃないわよね?」
 驚いた表情をしたシャルロットに、ウェルナー夫人は言った。
「時々お見えになるのよね、変わったお客様が。ルジツキー商事に勤めたいと---ここに来て、個人的に兄と直談判しようと思う美しいお嬢さんが。あなたがそうだとは思えなかったんだけど・・・胸ポケットに入っているのは、まさか履歴書じゃないわよね?」
 シャルロットは「まさか」とつぶやいた。
「そう。それならいいんだけど。兄は、そういう裏取引は好みません。自分のしていることを棚に上げて、そういう行為をする人間を軽蔑しているんです。もし、あなたが彼に何か頼み事をするつもりなら、きちんと訪問予約を取って、会社の方に行くことをおすすめするわ。わたしからの、忠告」
 シャルロットはちいさく頷いた。
「忠告ありがとうございます。彼がわたしに会ってくださるとはとても思えないのでまっすぐここに来たのですが、いったん戻って、今度は正攻法で訪問することにします」
 ウェルナー夫人はまた笑った。
「実は、履歴書ではなく、退職願を持ってきたんですが・・・」シャルロットは真顔で続けた。
「まあ。それなら、なおさら会社で渡すべきだわ・・・」
「ですから、それは、ちょっと・・・」
 ウェルナー夫人は目を輝かせた。「それでは、あなたは、本当に兄の・・・大切な女性なのね? あの兄が、恋人を持つなんて意外だわ。それより、あなたの行動の方が意外ね。別れるのに、退職願を書いてくるなんて、ユーモアにしてはきついわね。でも、そんなところが、兄の恋人らしいわ」
 シャルロットはまじめに言った。「残念ですが、わたしの退職願ではないんです」
 ウェルナー夫人は落胆したような顔をした。
「・・・まあ、残念ね。あの堅物が、女性と交際していたと聞いて、少しはまともになったと思ったのに。でも、考えてみると、彼はあなたのような女性を選ぶはずはないわね。彼は、サーシャがあなたのことを嫌いだと知っているんですもの」
 サーシャ、というのがチャルトルィスキー公爵のことだと気がつくと、シャルロットの顔が少しこわばった。
「わたしは・・・」
「さあ、本当のことをおっしゃい。あなたは、ナターシャのお嬢さんのブローニャさんでしょう? わたしは、こう見えても、人の顔を間違うことは滅多にないのよ」ウェルナー夫人が言った。「ブローニャさんは、数年前に亡くなられたと聞いているわ。でも、あなたは、間違いなくブローニャさんよ。そうなんでしょう?」
 シャルロットは少しの間何も言わなかった。しかし、ウェルナー夫人の目を見ているうちに、この女性になら話しても大丈夫だと感じた。
「わたしが<クラコヴィアク>のブローニャだったことは本当です」シャルロットは話し出した。ウェルナー夫人の顔がぱっと輝いたので、シャルロットはすぐに言葉を継いだ。「ですが、わたしが生きていることで困る人間がいると知って、わたしのために犠牲になった他の女性と入れ替わる決心をしました。今のわたしは、クリスティアーナ=コヴァルスカと申します。亡き夫ライモンド=コヴァルスキーは、ナターリア=スクロヴァチェフスカ夫人とは遠縁に当たります。わたし自身も、夫人とは遠縁の人間です」
「では、あなたは、ナターシャとは親子ではなかったのね?」
「ええ。わたしは、本当は、夫人の従姉にあたるクラリス=ド=ヴェルモンの娘です」
「えっ?」ウェルナー夫人は驚いてシャルロットを見つめた。「・・・それでは、あなたが、エマニュエル=サンフルーリィのお嬢さんなの? 彼は、娘さんを亡くして、養女を迎えたという噂だったけど、実は、本当の娘さんだったのね?」
 シャルロットは意外な名前が飛び出してびっくりした。「あなたは、父のことをご存じだったのですか?」
「そう、あなたがエマニュエルの《ぼくのかわいい白バラちゃん(マ・プティット・ローゼット・ブランシュ)》だったなんて。でも、そういわれてみれば、あなたは、確かに彼にそっくりだわ」そう言うと、ウェルナー夫人は納得したように頷いた。「彼は、ワルシャワに来ると、ここを訪ねてくれたのよ。温室育ちの、娘によく似た白いバラに会いに来た、と言ってね」
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たぶん、風邪だったはず・・・なのに。

備忘記録的なもの

先日(というか、連休の時)やっかいな風邪をひきました。
一日中、くしゃみが止まりません。
何があっても食欲だけはある、というのが自慢なのですが、今回は、食べても戻してしまうというパターン。

「今は、何も食べられない」と言ったら、家人が「どっか具合でも悪いのか?」と聞いた。

・・・だから、風邪をひいたんだってば。

「それじゃ、病院に行く?」と聞かれたので、「具合が悪いから行かない」と答えたら、「なんじゃそりゃ?」とあきれられました。

そんな調子が続いたので、連休明けに病院に行きました。

会社の同僚から、近くにできたばかりの、心療内科でもないのになぜかセラピードッグがいるという評判の、診療所(内科医院)を紹介されました。
『優しい先生でね、この間風邪をひいたときに点滴をしてもらったの。かわいいワンちゃんが玄関まで送り迎えしてくれるんだよ』という話なので、とりあえずその病院に決定。

「気持ちが悪いんで3日間食べていないの? 3日くらい食べなくても、結構死なないもんでしょう? 吐き気止めの薬を出しておくからね」でおしまい。
セラピードックは、噂通り玄関までお見送りにきてくれたけど、スリッパを脱ごうとして振り返ったら、すでにいなかった。結構冷たいもんだ。

うちに帰ってその話をしたら、「うん、確かに3日じゃ死なないよなあ」と笑われた。

『・・・ええっ? あの先生が、そんなこと言うんだ?』翌日、同僚からもさんざん笑われました。

風邪ひいて病院に行ったはずなのに、吐き気止めだけ、って、なんか納得できなかったけど、薬を飲んだら食欲だけは戻った。
くしゃみは相変わらず止まらない。

もう一度病院に行くべきかどうか、悩んでいるうちに時間だけが過ぎました。
いまさら、病院に行って「風邪薬ください」とはいえないし・・・。
 
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第1918回

第105章

 シャルロットがタクシーから降りて門の前に立ったとき、閉じられた頑丈な門の前に立っていた若い男性は、シャルロットの姿を見て残念そうに声をかけた。
「求人案内を見ていらっしゃったんですね。残念ですが、もう決まってしまったんですよ」
 屋敷で誰か雇う予定でもあったのだろう、門番は礼儀正しく頭を下げた。
 シャルロットは、彼を見て「あら、そうじゃありません」と言いかけた。
 そのとき、閉じられた門の建物側から女性の笑い声がした。
「そうじゃないでしょうとも。この女性は、どう見ても、わたしの相談相手を務めるには若すぎるわ」見知らぬ女性はそう言った。
 シャルロットは、その女性をちらっと見た。年齢は50代前半くらいだろうか、帽子の下から金色の前髪がほんの少しのぞいている。カロル=ルジツキー氏にそっくりな、聡明そうな灰色の目が興味深そうにシャルロットを見ていた。ルジツキー氏の娘にしては年が上だが、ルジツキー氏に姉妹がいるという話は聞かない。このひとは、一体誰だろう、シャルロットがそう思ったとき、女性がほほえんでこう言った。
「・・・思い出したわ。あなたは、ナターリア=スクロヴァチェフスカじゃない? よくたずねて来てくれたわね」
 門番は、驚いて女性の方を見た。もう一度シャルロットの方に視線を戻したとき、彼の顔には不審の色が見えた。
「お友達がみえたのよ。中に入れてあげてちょうだい」女性は門番に言った。「たしか、お友達を中に入れることは禁止されていないわよね? あなたは、わたしが外に出ないように見張っているんでしょう? わたしは外に出て行きはしないわ。だから、ねえ、お願い」
「・・・ですが、ナターリアさまは、すでにお亡くなりになったと・・・」門番は口ごもった。
「まさか」女性は明るく笑った。「では、あなたは、このかたを幽霊とでも?」
「ですが、カロルさまの許可がないのに、知らないひとを中に入れるのは・・・」
「このひとは、わたしのお友達です。それに、兄には、あとで言います。だから、お願い」
 兄・・・? シャルロットは驚きを顔に出してしまったようだ。
「・・・違うわね」女性はシャルロットの表情を見て言った。「わかったわ。あなたは、ナターシャのお嬢さんね? たしか、ブローニャさん」
 それを聞くと、門番の顔がぱっと輝いた。どうやら、この人は<クラコヴィアク>を知っている世代のようだ。
 シャルロットが頷くと、門番はいそいそと門を開けた。
「ありがとう。でも、あなたは、わたしが幽霊だと思わないの?」シャルロットは門番に訊ねてみた。
 門番はうっとりした表情で答えた。「たとえ幽霊でも、ブローニャさんが目の前にいるなんて・・・光栄です。あの、握手しても?」
 シャルロットは、真っ赤になった彼の手をとって、握手してしまった。門番は、さらに赤くなり、感激のあまり目に涙をためてうつむいた。その表情を見て、シャルロットまで赤くなった。
 そんな二人を見て、女性は言った。
「いつまでもこんなところにいないで、わたしの温室に行きましょう」
 シャルロットは軽く頭を下げ、女性のあとについていった。門番は、二人の後ろ姿をぼうっと眺めているだけだった。
 女性は、建物の裏にシャルロットを案内した。屋敷の中庭と思われる場所に、ガラス張りのかなり大きめな温室があった。中にはたくさんの種類のバラと、温室には場違いに見える大きなテーブルと椅子が8つ置かれていた。ルジツキー家の別荘には、バラが咲く温室があると言ったタクシーの運転手の話は本当だった。シャルロットは、あくまでも比喩だとばかり思い込んでいたのだ。
「わたしの隠れ家にようこそ」女性は、フランス語でそう言うと、シャルロットのために温室のドアを開けた。
 シャルロットはお礼を言って中に入った。ドアを開けただけで、バラの香りが漂ってきた。
「ここは、わたしたち兄妹が生まれたところなの。カロルは、わたしのためにこの家全部を買ってくれたの。だから、本当は、ここは<ルジツキー家の別荘>ではないのよ」女性はそう言うと、シャルロットにいすを勧めた。「順番が逆になってしまったのだけど、自己紹介させてください。わたしの名前は、ヘレナ=ウェルヌヴナ(ウェルナー嬢)。カロルの母親違いの妹で、正式にはヘレナ=ウェルヌヴナ=ルジツカと申します。もっとも、屋敷の人たちは、わたしをヘレナ=ウェルノヴァ(ウェルナー夫人)と呼びます。彼のいとこのウェルナー夫人ということになっているんですが、事情を知らない人は、わたしがカロルの愛人だと思っているはずです。そして、ここは、彼の愛人が住んでいる家なのだと。彼に妹がいるというのは、一部の人しか知らない秘密ですから」
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第1917回

第104章

 ピルニの後ろ姿を見て、フリーデマンが言った。
「本気か? あいつが信用できると思うのか?」
 シャルロットは頷いた。「あなたは、わたしの気持ちが一番わかると思っていたわ。だって、あなたはアレクサンドリーヌおばさまが亡くなる前にどうなさったか、よくご存じよね?」
 フリーデマンははっとしてうなだれた。
「だから、わたしは、チャルトルィスキー公爵のところに行くわ。でも、その前に」シャルロットはフリーデマンの手を取った。「行かなくてはならないところが一箇所あるみたいね。まず、今の話し合いをヤンコフスキー神父さまにお伝えしないと」
「いや、それはあとでもいいだろう」フリーデマンが言った。
「そうね、確かに、あとでもいいわね」シャルロットはそう言うと、さっと手を上げた。
 シャルロットの前に、タクシーが一台止まった。
「ごめんなさいね。ここからは一人で動くわ」シャルロットはそう言うと、フリーデマンが乗り込む前にタクシーを走らせた。
 あわてて車を追いかけようとしていたフリーデマンの姿を見て、シャルロットはつぶやいた。
「・・・ごめんなさいね、フリーツェック。でも、これは、わたしの仕事なのよ」
 そして、かの女はタクシーの運転手に言った。
「申し訳ないんだけど、ちょっと長いドライブにつきあっていただけるかしら。彼の追跡を振り切りたいの」
 運転手は、バックミラー越しにシャルロットを見てにやりと笑った。
「あの人、ずいぶん色男さんなんですね。逃げないで、きちんと話をすればいいのに」
 シャルロットはため息をついた。
「まあ、あなたも彼の味方なの?」
 彼は笑った。シャルロットがバックミラーに映った彼を見ると、笑った運転手の顔は、まだまだ幼さを残しているように思えた。
「うーん。あなたと彼は、相思相愛のカップルではなさそうですね。彼はあなたを追いかけ、あなたは彼から逃げようとしている。でも、ハンターは、獲物が逃げると追いかけたくなると相場が決まっています。彼の顔を見る限り、彼はあなたの行き先がたとえ地獄であっても、必死についてくるはずです。だけど、あの人は、誠実そうです。どうして彼から逃げようとするのです?」
「いくら断っても追いかけてくるからよ」シャルロットは答えた。
 運転手は言った。
「わたしが女性だったら、あんな男性に迫られたら、絶対にいやとは言えませんがね」そう言って、彼は笑い声を立てた。「それで、本当の目的地はどこですか? いくらなんでも、地獄へはつきあえませんからね」
 シャルロットは困ったように言った。
「困ったわね。わたしは、これから地獄の大王のところに行くつもりだったの。でも、彼がどこに住んでいるかわからなかったので、タクシーに乗ることに決めたのよ」
「・・・うーん、まだ地獄へは行ったことはないのですが」
「実はね、わたしが行きたいのは、カロル=ルジツキーさんのお屋敷なの。もちろん、ご存じよね?」シャルロットが言った。
「ええ、もちろんです。どちらに向かいますか、本宅ですか、それとも別宅?」タクシーの運転手はまじめに聞いてきた。
 シャルロットは少し悩んでから答えた。
「これは、あなたの勘に頼らせてもらうわ。今、彼がいそうな方に連れて行って」
 運転手は大笑いしてから答えた。
「では、別宅の方ですね。彼は、昼食はバラの園で召し上がるのだそうですよ」
「まあ、冬なのに?」シャルロットは目を丸くした。
 運転手は含み笑いをしていった。「彼のバラ園には、年中とても美しいバラが咲いているそうですよ。噂ですけどね。ところで、あなたも彼のバラのコレクションに興味があるんですか? それとも、そのコレクションに加わりたいとか?」
 それで、シャルロットにも、彼が言外ににおわせているものに気がついた。
「いいえ。でも、バラにはとげがあることを、彼に思い出させようと思ったのよ」
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カレーライスの作り方

備忘記録的なもの

(これって、piyoネタだよね?)
他の大学はわからないが、うちの大学には「カレーライスの作り方」という都市伝説があった。
某教授のテストで、どうしても答えられないとき、答案の一番下に「カレーライスの作り方」を書くと、赤点が免れるのだとか。

友人Aが、(1年生の)前期テストの時に、実際にカレーライスの作り方を、挿絵入りで書いたのだそうだ。
結果は、みごとに赤点。

それでもめげずに、Aは教授のところに行って、「カレーライス、完璧だったでしょう? どうして赤点なんですか?」と聞いた。
教授はこう答えたそうだ。
「わたしは、カレーライスにジャガイモを入れるのは嫌いなんだ」
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論理的な話は書けない

備忘記録的なもの

「あけおめ」記事をいつまでもトップに置いておくのはどうかとは思っていたのですが、ここのところ、パソコンの調子が悪いか体調が悪いかその両方かで、人のところにコメントを残しに行くどころか、自分の記事も書けていない。

そんなこんなで、自分の中でなにやらもやっとしたものを抱え込んでいるうち、1月も半分を過ぎてしまいました。

近頃、あるサイトでこんなものを目にしました。要約すると、<指を組んだときにどっちの手の親指が上になるか、腕を組んだときどっちの手が上かで脳の使い方がわかります>という内容のものでした。
それぞれ、右が上の場合は左脳型、左手が上の場合右脳型、と判定されるのだとか。

自分の場合を例にすると、指を組んだときに左手の親指が上に来るので「右脳型」インプットタイプ。いわゆる直感型。腕を組んだときには左うでが上なので「右脳型」アウトプットタイプ。インスピレーションとフィーリングで行動するので、たとえば、使ったものを元の位置に戻すのが苦手なので片付かないタイプなのだとか。
・・・うーん、そう言われてみれば、小説を書くのにもかっちりしたプロットを組立てることが苦手だなぁ。
(「へぇ、それでも長編小説を書けるんだ?」と言われると、うーん、と言うしかないんですけど。)

逆に、プロットというものが苦手だから、短編小説が書けないのだと思います。短い中でも、起承転結がきちんとあって、オチを考えなくてはならないのですから、論理的思考のかけらもない人間には、とてもとても。
(短編を読むと、作者の「頭の良さ」がわかってしまうので、手が出しにくいこともありますが。)
そういえば、これまで書いてきた作品(って、ほぼ全部未発表状態ですが)は、合作のものをのぞくとすべて長編小説でした。今「年代記」と呼んでいるものは、その中で一番最初に書かれたもので、かつ一番長編の作品です。
(それを手直ししてブログで発表しているんですから、一番長くつきあった作品でもあります。)
最初はリングノートから書き始め、ルーズリーフにうつって高校時代に一度完成。それを、ちょこちょこ手直しして、社会人になってワープロ版にして、今度はその原稿をもとにしてブログ版を作っているわけで、考えてみるとシャルロットとは長いつきあいになります。

(シャルロットの名前の由来については、たぶんネタバレしていないはずなのでここで白状しますが、もともと違う名前で書き始めたのですが、ルーズリーフ版の時、「主人公の名前はシャルロットにした方がいいよ」という、<ゲーテ大好き>の友達のアドヴァイスで簡単に変更。「片思いメインの小説の理想的な恋人=シャルロット(厳密には”シャルロッテ”)」って、考えてみると、ものすごく安易な発想です。名前負けしていなければいいのですが。ちなみに、彼女の初登場時の名前は、本名に使われていますし、2番目に考えた名前は現在ワルシャワ編で使っています。やっぱり安易ですね。)

*その他のネタバレについては、少し古い記事ですがこの記事にあります。もうひとつ書いたネタバレ記事(コルネリウスの名前の由来&ヴィトールドの恋愛について)がありますが、引っ越し前のブログの記事で、手直しがすむまで(といいながらずいぶん経ってしまいましたが)未発表になっております。

本当は、第105章が終わったあとで「第三部が終わりました」というネタとして書くつもりだったのですが、完成どころか、まだ第1話を半分しかかけていない状態なので、20日に第104章の最後の話を発表したあとは、またしばらく沈黙しちゃいそうな展開になってしまいました。できれば、その後も毎週火曜日の更新を目指して、ちょこちょこと下書きを書いていくつもりです。
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第1916回

第104章

 ピルニは下を向いた。そして、もう一度ひざまずいた。
「わたしは、どんな罰を受ける覚悟もできています」
 シャルロットはゆっくりと首を振った。
「わたしが間違っていました。知らなかったとは言え、失礼なことを申し上げてごめんなさい」
「あなたが謝ることはありません。わたしは罪を犯しました。だから、自首する前に・・・」
「自首する必要はありません」シャルロットは穏やかな声で言った。「あなたは、わたしを脅迫しただけですもの」
 ピルニは驚いて顔を上げた。
「もし自首したら、あなたの命はないと考えるべきでしょう」シャルロットが続けた。「だから、あなたは警察に行ってはいけません」
 ピルニはまだ目を白黒させていた。
「あなたの罪が、それほど重いとは思えません。わたしは、あなたの謝罪だけで十分です。あなたの顔を見ていれば、あなたが本気で後悔しているのはよくわかります。ここであなたに会えたと言うことは、神さまもきっとあなたを許してくださっているはず。だったら、わたしもあなたを許します。この件はそれで終わりにしてはどうかしら?」シャルロットはそう言うと、短くため息をついた。「あなたもチャルトルィスキー公爵という人間を知っているのなら、わかるでしょう。彼は、自分に逆らった人間を決して許しません。あなたは、警察署でたぶん門前払いされるでしょうし、警察から出てきたところで、あなたの仲間たちに、あなたがわたしにしたような目に遭わされるのがオチだわ。いいえ、殴られるくらいならまだましで、口封じされることだって十分にあり得るわ。あなたは命令に従っただけで、殺されるほどの罪を犯したわけではない。だから、かりに裁判になったとしても、それほど重い罪にはならないはず。あなたには、最高の弁護士を用意するつもりよ。しかも、あなたは自首したんだし、被害者のわたしが助命嘆願しているんだから、執行猶予がつくくらい軽い判決になると思うの。だから、あなたが死ぬ必要なんかどこにもないわ。どうしても気が済まない、死んでお詫びするつもりだ、というのだったら、あなたがしたことを」
 そう言って、シャルロットはちいさなバッグからメモ帳を出した。
「これに書きなさい。あなたがどうしても自首するというのなら、そうするといいわ。もし、あなたが殺されたら、必ずわたしがあなたのかたきを取ります。このノートに書かれたあなたの遺言を暴露して、あなたに命令を出した人間に罰を与えてもらいます。残されたあなたの家族は、わたしが十分に世話をします。あなたがどうしても死にたいのなら、わたしは止めません。でも、あなたは死ぬ必要はないのよ。そうだわ、あなたさえよかったら、ルジツキーさんの会社を退職したあと、うちに来て欲しいと思うの。ちょうど、わたしにも、あなたのようなボディーガードがいてくれたらと思っていたところなのよ」
 二人の男性は、同じようにびくっとしたような顔でシャルロットを見た。
「・・・正気か?」声に出したのはフリーデマンだった。
 同じタイミングで、ピルニはシャルロットの足下にひざまずいていた。
「チャルトルィスキー公爵に会わなければ」シャルロットはきっぱりとそう言った。「わたしを脅すことで、これ以上被害者を作ってはいけないわ。あなたはどうするの?」
「あなたについていきます」ピルニはシャルロットの手を握ってそう言った。
「チャルトルィスキー家についてきて、という意味じゃないわ」シャルロットは優しく言った。「まだ自首するつもりなのかどうかと聞いているの」
 ピルニは涙を流しながら答えた。「あなたが許してくださるのなら、わたしは、これからずっとあなたに仕えたい」
 シャルロットはピルニの手を取った。
「自首するのはとりやめてくれたのね。よかった。それじゃ、今すぐ辞表を書きなさい。わたしが、直接あなたの上司に届けに行くわ。そして、あなたとあなたの家族には、決して手を出さないように言ってくるわね」
 ピルニはうれしそうにうなずき、ポケットに入れていた封筒をシャルロットに手渡した。すでに、辞表は書いていたようだ。
 シャルロットは、手帳に自分の住所を書き、ちぎってピルニに差し出した。「家族を連れて、すぐにそこに行きなさい。もっとも、あなたの告白を聞いて、家族がついていく、と答えれば、だけど」
 ピルニは小さく頷き、ポケットにその紙を突っ込むと、頭を下げ、駆け去っていった。
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第1915回

第104章

 ピルニは驚いたようにシャルロットを見た。そして、苦笑した。
「あなたは、一つと言って二つ質問なさった。そして、二つとも正しくない」
 そう言うと、彼はまじめな顔に戻った。
「<こういうお仕事>」ピルニはシャルロットの言葉を繰り返した。「あなたは、おそらく、わたしをテロリストか何かと思っておいででしょう。ですが、わたしは、普段はそういう仕事をしているわけではない。ルジツキー商事では、わたしは二つの肩書きを持っています。午前中は、工場で働いています。そこでは小さな班の班長を任されています。わたしたちの班は、特別な班で・・・」
 フリーデマンはピルニをにらみつけた。
「・・・午前中は工場で働き、午後は会社の柔術クラブで稽古をします。ルジツキー柔術クラブは、社会人のクラブとしては国内でも5本の指に入るくらいのチームで、わたしはそこの副部長兼コーチをしています。わたしたちのチームは、大会でメダルを取るのを目標としている人と、社長お抱えのボディーガード部隊に入るのを目指す人に分けられます。わたしは、そのボディーガード部隊から、チーム指導者になった変わり種です。ボディーガードのリーダー曰く、『きみは、こういう仕事より、後輩の指導の方が向いているようだ』・・・そして、わたしはボディーガードをやめてクラブに移ったのです」
 そう言って気が弱そうにほほえんだピルニを、シャルロットは優しい目で見つめた。
「わたしは、子どもの頃から、体だけは人一倍でかいのに気が小さい、と言われていました。そんなわたしを変えたのは、たまたま見に行った柔術の大会でした。自分よりも大きな人間を投げ飛ばす少年を見たとき、わたしはこれだ、と思いました。ですが、クラブの指導者は、『柔術は、他人に危害を加えるためのものではない。いじめるヤツをやっつける、という気持ちで入団されては困る』といってわたしの入部を拒みました。わたしは、何日も道場に通い、練習を見学しました。だんだん、柔術そのものに惹かれるようになり、それに気づいたクラブの指導者が、ついに入部を許可してくださいました。それからは、幸運続きで、大会で入賞できるまでになり、ルジツキー商事に入社し、そこでクラブを作る、と話はうまい具合に進んでいきました。わたしの人生は順風満帆、まわりからエリートと見られ、同じ会社の人間と結婚し、二人の子どもにも恵まれました。幸せってこういうものなのだ、と思うようになりました。わたしは小心者ですから、それで満足だと思っていました。ところが、一人の男がすべてを変えてしまいました。中途入社でわたしの上役となったその男性は、柔術の理念には全く興味を示しませんでした。彼は、柔術をただのレスリングだと思うような人間でした。彼が入社して、ボディーガード部隊はがらっと変わりました。腕っ節が強い奴らをクラブから引き抜き、暴力三昧の集まりに変えてしまったんです。裏では、犯罪に手を染めている者もいるのだという噂が流れ、クラブの連中は戦々恐々とする毎日になりました」
 ピルニはぶるっと身震いした。
「そして、去年、クラブチームは結成以来初めて大会で予選落ちしました。わたしは、『今度こんなことがあったら、クラブは解散する』という上役の言葉を部員に伝え、それを聞いた部員たちの中には、まじめに再就職先を探した人もいたほどです。だから、わたしは決心しました。彼らを、安心して練習できる環境に戻さなければならない・・・それが指導者のつとめだと思ったからです」
「そして、悪に手を染めたわけだ」フリーデマンが冷たい口調で言った。
 ピルニの目に涙がたまった。「無抵抗の女性を殴るなんて、そんなことが許されるはずはない。でも、わたしはやってしまった。心の中でみんなのためだと言い聞かせた。だけど、そうじゃなかった。わたしは、自分に負けたのです。いいえ、わたしは金の力に負けたのだと悟ったのです」
 その言葉を聞き、シャルロットの肩がぴくりと動いた。
「あなたはおっしゃいましたよね。多くの人が夢見るのにもかかわらずこの世で実現するのが一番難しい夢は、愛するひととたくさんの子どもたちと一緒に温かい家庭を築くことかもしれない、と。一見平凡な夢ですが、その夢を叶える人間は多くないのだと。普通の人は、その夢を実現するにはお金が必要だと思い、気づいたときにはお金の奴隷になってしまっている。世の中の大半の人は、お金を支配するのではなく、お金に支配されて人生を終える。そのくびきをどこかで断ち切らなければ、人間は幸せにはなれないのだ、と」
 ピルニはそう言ってため息をついた。
「だから、わたしは決心しました。幸せになるために、もう一度最初からやり直そうと。そのために、今目の前にある砂の城を壊さなければならないのだったら、わたしはそのすべてを捨ててもいい。自分は間違いを犯してしまった。償うところから人生をやり直さなければ。そう思ったとき、わたしの足は教会に向かっていました」
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第1914回

第104章

 二人の足は、広場で止まっていた。火曜日の昼前で、広場は相変わらず閑散としていた。
「どうして、息子と一緒の車に乗らなかったんだ?」フリーデマンが出し抜けに訊ねた。
「あなたこそ」シャルロットは言った。
「わたしは、あなたに話をしたかった。子どもたちの前では言えなかったことを話すために」フリーデマンはそう言うと、シャルロットの方を見た。
「残念ながら、わたしのほうには、もう話すことはないわ」シャルロットは答えた。「だから、このあたりでお別れしましょう」
 フリーデマンは、まだ何かを言いたそうにシャルロットを見た。
 ちょうどそのとき、教会から一人の大柄な男性が出てきた。その男性は、二人の姿を見ると、はっとしたように足を止めた。次の瞬間、男性は、早足で二人に近づくと、大きな体を折り曲げるかのようにしてシャルロットの足下にひれ伏した。
「ほんとに知らなかったんです。どうか、許してください、ブローニャさん」彼は大きな声で叫ぶようにそう言った。
 シャルロットは真っ青になり、思わずフリーデマンを見た。
「広場の真ん中で、大きな声を出すものじゃない。それに、この女性はクリスティアーナ=コヴァルスカ夫人だ。人違いじゃないのか?」フリーデマンが男性に声をかけた。
 彼は顔を上げた。茶色の目が、フリーデマンをじっと見つめた。
「あなたは、<クラコヴィアク>のフリーツェックだ。だから、この女性は<クラコヴィアク>のブローニャに間違いない」
 フリーデマンはあきれたようにいった。
「前半は正しい。わたしは、確かに昔<クラコヴィアク>というグループにいた。だからといって、その結論に達するのは早いのでは?」
「<クラコヴィアク>のフリーツェックが、そんなまなざしで見つめる女性は、ブローニャしか考えられない」男性は頑固に繰り返した。そして、もう一度頭をこすりつけるようにした。「だけど、あなたがブローニャかどうかは、この際関係ありません。わたしは、あなたに謝罪したいんです。わたしを覚えておいでかどうか・・・わたしの名前は、アンジェイ=ピルニといいます。3ヶ月前、ここで、あなたに怪我をさせた者です」
 シャルロットはびくっとして、ピルニと名乗る男性から一歩下がった。
 逆に、フリーデマンは一歩前進した。そして、怒っている口調で訊ねた。「ちなみに、ピルニというのは、本名か?」
 彼は再び顔を上げ、「間違いありません」と答えた。
 シャルロットは顔を上げた男性をじっと見つめた。
「<誠実(ピルニ)>。名前負けしているとお思いでしょう。わたしもそう思います。いえ、自分の名前のような人間になりたいと、いつもそう思っていました。だから、あんなことをしたあと、ずっと苦しかった」男性は、苦痛に満ちた表情でそう言った。「病院であなたに再会したあと、わたしは決心しました。自首しよう、本当のことをすべて話してしまおうと。そして、その前に告解してきたところです」
 黙っていたシャルロットに、ピルニはこう言った。
「もし可能なら、その女性に謝罪してから自分の罪を償いなさい、と神父さまはおっしゃった。神に対する償いは終えました。人間に対する償いだけが残りました。ここであなたに会えたのも、きっと神の計らいに違いありません」
 フリーデマンは、ふん、と鼻を鳴らした。
「わたしは、チャルトルィスキー公爵の命令であなたを襲いました。公爵は、あなたをおびえさせるだけでいい、命は奪ってはいけないと言いました。そして、決して捕まるなと。それで、わたしは、誰もあなたに注目しなくなった瞬間を選び、後頭部をちょっと殴って・・・」
「ちょっとだと?」フリーデマンは気色ばんだ。「あれでは、傷害罪じゃなくて、殺人未遂で訴えられてもおかしくないんだぞ!」
 ピルニはしゅんとして下を向いた。
「・・・あれでも手加減したんですよ。それから、全力で走ってその場から逃げました」ピルニは小声で言い終えた。
 今にもつかみかかろうとしているように見えたフリーデマンを、シャルロットが止めた。
「ピルニさん」シャルロットは大柄の男の方に向き直った。「もう少し詳しくお話を伺ってもいいかしら? わたしには、一つだけ理解できないの。こういうお仕事をしているあなたが、どうして今回だけ罪の意識を感じたのかしら?」
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第1913回

第104章

 シャルロットは顔を上げた。
「一つだけ確認してもいいかしら? それは、あなたたち二人だけの意見? それとも、クリスとオーレックも同じ意見なの?」シャルロットは、ヴィクトールに訊ねた。
 ヴィクトールは小さくため息をつき、答えた。「今のところ、ぼくたち二人の意見です。オーレックには何も相談していません。もし、オーレックに相談していたら、母上を説得できるもっと違う方法を考えてくれていたかもしれませんが、彼には話しませんでした。兄弟だからと言って、常に同じ意見だとは限りません。彼は、ボレスワフスキーさんが好きでした。ボレスワフスキーさんは、テレーニャのおじさまだから。彼はむしろ、ぼくたちの意見には反対だったかもしれません」
「フリーディは、おじさまが幸せになることを考えている。それで、あなたは? あなたは一体誰を応援しているつもりなのかしら?」
 それを聞いて、ヴィクトールはちょっとの間考えた。そして、彼は答えた。
「ぼくは、みんなの利益を考えました。自分の考えよりも、全員にとって最善の道を考えたつもりです。現時点で、母上がフリーデマンさんと結婚することが一番いいように思えました。だから、ぼくはその信念に基づいて行動しました」
 シャルロットは、ヴィクトールのその答えに感心した。しかし、かの女はこう訊ねずにはいられなかった。
「でも、あなた個人としたら、わたしが誰とも結婚しない方がいいのよね? ずっとコヴァルスキーさんのことを想い続けているのが最善なのよね?」
 ヴィクトールは渋々頷いた。「あなたがどうしても答えが聞きたいとおっしゃるのなら、それがぼくの本音です」
「でも、もし、わたしがどうしてもフランスへ帰ると言ったら、あなたは最初に言ったとおり、たとえ一人になってもここに残ると?」
「ええ」ヴィクトールは答えた。「ここが、ぼくのふるさとです」
 シャルロットは何度も頷いた。「あなたは、コヴァルスキーさんのようになりたいと思っている。でも、わたしにはわかったわ。あなたは、コヴァルスキーさんのような弁護士ではなく、政治家になるべき人間だと」
 ヴィクトールはぴくりと眉を上げた。しかし、何も言わなかった。
「もし、この問題が多数決で決まる問題だったら答えはすでに出ているわけだけど」シャルロットはそう言うと、司祭の方を向いた。「念のために伺いたいのですが、あなたも同じ意見ですか?」
 ヤンコフスキー神父は、優しいまなざしでシャルロットを見た。「司祭としての意見をお訊ねなのでしょうか、それとも、わたし個人としての考えですか?」
「前者は伺うまでもないことなので、後者を伺ってもかまいませんか?」
 ヤンコフスキー神父はほほえんだ。「残念ですが、この場でお答えできるのは、一般論だけです」
 シャルロットもほほえんだ。「そうでしたね、ここは神さまの家ですから、神さまの意思を第一に伝えなければなりませんわね」
 そのとき、玄関のベルの音がした。
 ヤンコフスキー神父は立ち上がり、「大切な仕事が入りました。失礼します」と言って部屋から出て行った。
 司会者がいなくなり、4人はしばらくの間黙っていた。
 やがて、フリーデマンが口を開いた。
「異議がなければ、年長のわたしがこの場を仕切らせてもらうが、いかがかな?」フリーデマンは、全員の顔を見回した。「・・・どうやら異議がないようなので、進行役を引き継ぐことにしよう。さて、まず若い紳士たちにお願いするのだが、申し訳ないが、いったん家に戻ってもらえるだろうか」
 ヴィクトールは眉を上げた。
「これは、この場でこうしていてもすぐに結論が出る問題ではなさそうだ。われわれの意見はザレスカ夫人に伝えた。だから、かの女が結論を出すのに少し時間をもらってもいいんじゃないだろうか?」フリーデマンが続けた。そして、子どもたちから異論が出ないようだったので、言った。「では、電話を借りてくる。ヴロンスキーとユリアンスキーさんにきみたちの無事を報告して、迎えに来てもらわねば」
 そして、フリーデマンは部屋から出て行った。
 それぞれの執事たちが迎えに来るまでの間、彼らは無言のままだった。シャルロットとフリーデマンは、大人だけでもう少し話し合いをしたいからと言って子どもたちだけを車に乗せた。
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第1912回

第104章

「人を愛すると言うことは、理屈じゃないのよ。もし、誰かを心から愛したことがあるならわかると思うの。自分自身と同じくらいその人のことが大切なの。その人のためだったら、どんなことでもできそうな気がするくらいにね。もっとも、その人のために死まで選べるような人は」シャルロットは、壁に掛かった十字架のキリスト像に目を向けた。「それほどたくさんはいないかもしれない。でも、確かに何人かは存在するの」
 全員がシャルロットにつられて壁の方に視線を向けた。
「人間は、見ず知らずの人のためにでさえ、命を投げ出すことができる。わたしの祖父は、自殺しようとして馬車の前に飛び出した少女を助けるためになくなった。知らない人のためではないけれど、コヴァルスキーさんは、車にはねられそうになったわたしの息子を助けようとしてなくなった」シャルロットはそう言って下を向いた。黙祷を捧げるような間を置いてから、シャルロットは顔を上げ、続けた。「わたしは、コヴァルスキーさんの遺言に従おうと思うの。彼はわたしに幸せになって欲しいと言った。わたしは、幸せになるために誰を選ぶべきか考えぬいて、一人の男性を選びました。わたしは、フランスに戻りたいのです、元の婚約者の元へ」
 司祭は穏やかな口調で言った。
「パニ=ザレスカの主張はわかりました。意見がある人はどうぞ」
 口を開いたのは、ジークフリートだった。
「おじさまがどれだけザレスカ夫人を愛しておられるのか、そばにいるぼくにはよくわかります。というか、だんだんわかってきました」ジークフリートはそう言うと、シャルロットに訊ねた。「あなたがなくなったと言われる1925年以降、おじさまがいくつの作品を発表したかご存じですか?」
「確か、7つだと思うわ」シャルロットが答えた。
 フリーデマンは瞬きを繰り返した。正解だ。だが、なぜ即答できるのだ?
「そのとおりです」ジークフリートが答えた。「でも、あなたは、その7作品がいつ作られたかはご存じないでしょう?」
 シャルロットは頷いた。
「彼が最後に作ったのは、あのヴァイオリン=コンチェルトです。それは、彼がずっと愛していた少女を追悼するために作られた作品で、完成したのは26年のことです。おわかりですか、彼は、あなたが亡くなったと聞いたあと、一つしか作品を書けなかったんです。そして、そのあと、どんなことをしても、彼は全く曲が書けなかった。だから、彼は、それまでに書いた作品を発表しながら、作曲教師の口を探し続けたんです。食べていかなければなりませんでしたから」フリーデマンは、ジークフリートに話をやめるように何度も目配せをしたが、ジークフリートは無視して話した。「ですが、あなたに巡り会った。そして、彼は決して戻るまいと思っていたワルシャワで仕事をする決心をしたのです。そして、彼はベルリンでの生活とは正反対に、たった一人の女性もそばに寄せ付けず、まるで聖職者のように・・・」
 司祭が目を上げたので、ジークフリートは赤くなった。
「・・・その・・・控えめな生活をしてきたと思います・・・。そんな彼が、いきなりまた外出をはじめたとき、ぼくはとても不安になりました。そして、黙ってあとをつけたところ、彼の行き先が判明しました。彼は、初恋の女性のところに花束を届けに行っていたんです。ぼくは、それを知り・・・彼を応援しようと決めました。それなのに、その女性の方は、彼の思いに全く無頓着で・・・」
 ジークフリートは話をいったん切ると、いきなり結論に入った。
「だから、ぼくは決心しました。おじさまは、その女性と結婚するべきだと。そのために、ぼくに何ができるかと思ったとき、ジュスティーが提案したんです。正攻法で攻めても、お二人はきっと話を聞いてはくださるまい。荒療治だけど、少しは心配させた方が、じっくり話を聞いてくださるのでは、と。そして、ぼくたちは家出を決行しました」
「目的はわかったが、手段は正しくないと思う」フリーデマンが口をはさんだ。「どうしてまず正攻法で攻めようとは思わなかったのだ?」
「どうせ聞いてはくれなかったでしょう?」ジークフリートが答えた。「今だって、ザレスカ夫人の言葉を聞く限りでは、かの女の決心が固いのは間違いないことですし」
「・・・」フリーデマンは思わず絶句した。
「でも、ぼくたちは、話を聞いて欲しいと思ったんです。ぼくたちにも、言いたいことがあるとわかってもらいたかったんです」
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